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第46話 クワッ!

「あ? あんだって?」  賑やかなゲイバーの片隅、引く手あまたの美形ネコ、そして、けっこう高給取りらしい商社勤務のサラリーマンが出していい声色じゃない。 「レン、顔も怖い」 「怖くもなるわ!」  お前はどこの雷オヤジだよ、と言いたくなるほど、雷みたいに大きな声を出すと、クワッ!って擬音が似合いそうな、目から光線でも出す勢いで見開いた。 「もおおおおお、お腹いっぱい。いらん! いらんよ! あんたの、チョコレートと蜂蜜と餡子とメープルシロップと白糖、三温糖をぶっかけたような甘い惚気とか、いらあああん!」  聞いてるだけでも、胃の辺りがズンと重くなるような例えだな。レンが聞きたいって言ったんじゃないか。旅行に行ったって話したら、付き合うとかそんなの一切聞いてなかったからって。好きですっていう初告白からつい昨日までの全部を話しなさいって、言ったのはレンのほうだろ。だから、そこから全部話したのに。 「けっ、惚気やがってー! ばかぁ、ラブラブじゃん!」 「ちょ、ピーナッツの殻投げるなよ」  エイ! なんて連呼しながらこっちに向かって、俺にとっては小さな嫌がらせを、お店の人にしてみたら掃除が面倒になる大きな嫌がらせをする。 「そんで? その、彼氏さんは? はよはよ。面見せやがれ」 「レン、荒れすぎ。真紀は今日ミーティングが長引くっつってた」 「かー! 真紀だって! 呼び捨て! 前は、あいつとか、そいつとか、ドイツとか言ってたくせに! 荒れるっつうの! ここ最近、ご無沙汰なんだからっ!」  何、その、少し挟んだ「ドイツ」っていうの。見た目は美麗なまんまだけど、とうとうあのレンもオヤジ化が進んだ? タチ転向とかじゃなく、オヤジへの進化? 「ご無沙汰って、どんくらいだよ」 「二週間」 「はぁぁ?」  二週間? そんなのご無沙汰に入らないっつうの、軽くいって、一ヶ月経過で、あ、そろそろご無沙汰っぽい、ってレベルだったんだぞ。俺は。二週間なんて、そんなの全然。 「ご無沙汰って、何が何が?」  軽いノリ。俺とレンの間にひょっこり出現したのは見知らぬ男だった。短髪に、小麦色をした肌、大きな声と比例するように大きな口で笑って、親しみやすいを通り越してる。  馴れ馴れしい。  いきなりすぎて目を丸くするレンと俺に、かまうことなくその男はニコニコ笑うと、気軽に話しかけてくる。  いわゆるナンパだ。 「あーん、すごい楽しい会話してたの。ごめんね」  大概、こういう男が狙っているのはレンのほう。だから、俺はこんな時、レンの対応をぼんやり眺めて、空気に徹する。今日はお断りするらしい。その様子をグラス片手に眺めていようと思った。 「へー、どんな会話? ね、君、それ何飲んでんの?」 「お、俺?」  びっくりして、飲みかけてた酒を噴き零すところだった。いきなり、そのナンパ男がこっちを見て、食いついてきたから。 「美味そう」 「あー、これ、ただのハイボールだよ」 「えー? マジで? 全っ然美味そう。君が飲んでるからかなぁ。ちょっと味見させてよ」  そんなわけねぇじゃん。うざ……。  レン狙いじゃないんなら、用ないっつうの。 「あー、悪いんだけど」 「私が恋人ですっ!」  邪魔だからバイバイって言おうと思ったところに、激突するような、あまりにでかい叫び声が割って入ってきて飛び上がった。目の前には濃紺のスーツ、それと黒髪に、斜め後ろから見える、眼鏡。  真紀だった。  真紀が、あらかじめ教えておいたバーの名前を頼りにやってきた。  俺がいて、真打登場みたいになった真紀がいて、チャラナンパ男がいて、レンがいる。レンは一番良い席で映画か演劇でも楽しむように目を輝かせてた。ナンパ男は真紀を見て、少し上へ視線をズラしたから、たぶん、シチサンを見ただろ。 「あー……えっと」 「彼は恋人がいるので、邪なことはしないでいただきたい!」 「っぷ」 「誉さん! 何を笑ってるんですか!」  さっきのレンそっくりな顔をしてた。クワッ! って、目からビーム出そう。 「え? 彼氏?」 「恋人です!」  ほら、また、クワッ! って、した。  真紀がいて、ナンパ男がいて、その向こう側、レンはもっと楽しそうだった。そして、笑いながら、出口のほうを指差している。なんでか、おえぇって吐く真似をして、また笑ってる。 「ほら、真紀、帰ろう」 「え? あの、友だちに私を紹介」 「もうした」 「えぇっ? 彼が友、」  ちげぇよ。即座に否定して、そして真紀の手を引っ張って、外に出る。もう紹介しておいた。なんだっけ、蜂蜜とチョコレートと三温糖と、とにかく甘い全部をぶっかけたような惚気をたくさんしておいたから。顔見て、お腹いっぱいだってさ。  さっき、なんで吐くジェスチャーしたのかと思った。  なにそれ? なんて意味?  そう聞き返したかったけど、すぐにわかったからしなかった。レンが可愛くウインクをしながら、両手でハートマークを作った。 「誉さん! あれって、ナンパじゃっ」 「おーすげ、わかった? 珍しい。ほとんどされたことないのに」 「ちゃんと気をつけてください! 貴方には」 「ナンパされるの珍しいって言ったろ? それに――」  レンはあの時、こう言ったんだ。 「それに、ヤキモチ焼きの恋人がいるからって、断ろうとしてたところだっただろ」  ラブラブバカップルは早く帰りなさいって。 「や、あぁぁっン、真紀、早いっ」  ヤキモチセックスをする真紀は激しくて興奮する。場所なんておかまいなし。玄関で、盛りがついたみたいに性急に、けれど、たっぷりと舌で俺のことを濡らしてから、挿ってくる。 「ン、ぁ、イっちゃいそ」 「誉っ」 「あぁぁぁっン」  生真面目な男がネクタイを雑に緩めただけで、髪を掻き乱されながら、俺の中を荒々しく犯すんだ。キスマークがキスの痕じゃなくなる。噛み付いた痕に変わる。歯形っていう所有の証に変わる。 「あ、真紀っ」  さっき、帰り道の途中、レンからメッセージが来た。カッコいいって、言われてた。イケメンって。シチサンだけど、なんかそれも、ベッドの中で乱れると思ったら最高じゃない? なんて言われて、レン相手に、俺がヤキモチしそうになった。 「はぁっ……ン」  俺は上を胸まで捲り上げられて、半裸に剥かれ、片足を抱え上げられながら、抱かれて、甘い声で啼いてる。 「ン、ぁ、真紀っ」 「お酒の味がする」 「飲んでからな」 「……焦った」 「あ、あっン、真紀、気持ちイイっ」  ぎゅっと抱き突いて、玄関扉をガタガタ鳴らしながら、攻め立ててくる恋人のペニスを孔の口で締め付ける。 「待っ、誉、出る」 「ン、いいよ……出して」 「っでも」  真紀の独占欲は気持ちイイ。独り占めされたくなる。もっと、欲しがられたくて、俺の身体全部使って、誘惑してる。 「中出し、して」 「っ、誉っ」 「他の男が寄ってこないように、ちゃんと俺の中にも印、つけて?」  耳元で囁きながら抱きついた。 「あ、あっ、ン、イくっ、ぁ」 「っ」 「ン、イく、から、キス、して……」  声我慢できないよ。こんな激しくて、気持ちイイセックスしたら玄関だろうと喘ぐから、だから、真紀の射精を中で感じながら、イく時、深い口付けで口を塞いでもらった。

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