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第60話 絶倫男が萌える時

 ホント、腫れたらどうすんだ。俺の真っ黒な指先でガリガリガリガリ……わざと引っ掻き毟りたくなるような激しいセックスばっか、何回もして。 「……」  まだ、真紀が俺ン中で暴れてるみたいに感じて、これ、どうすんだよ。 「睫毛、なが……」  穏かな寝息を立てているけれど、ついさっき、数時間前までは獣みたいに本能剥き出しで俺のうなじに噛み付いてた。  潮吹き、中イキ、そのうち、俺、真紀に開発されすぎて、すぐに発情するようになっちゃいそう。 「……」  けど、それでも、いいか。  真紀は絶倫だし、セックスの時だけすごく乱れるから。欲しくなったら、真紀がくれる。甘くてエロい気持ちイイものを、たくさん溢れるくらいにさ。  もう賞味期限切れだと思ってた。もう俺の欲しいものはずっと満たされないんだと思ってた。けど、真紀がキスをしてくれた。裸になった俺の全身にキスをして、全部丸ごと可愛がってくれた。  なぁ、それがどんだけ嬉しかったと思う?  けど、それを満たしてくれたから好きになったんじゃないんだからな。わかってる?  たくさん経験をしたけれど、全然違ってたんだ。真紀だけは縋ってでも離したくなかった。かっこ悪くたっていいと夢中になってその背中にしがみ付いた。  なぁ、俺がどんだけ、ぞっこんかって、知ってる?  もう言わないからな。「別れたい」とか、お前のためとか、お前は俺でいいのか? なんて不安ももう言わない。  絶対に捕まえるんだからな。 「もう、離してやんないんだからな……」 「それはこっちのセリフです」 「!」 「ほら、寝て」 「ちょっ」  強引に腕が俺を捕まえて、有無を言わさず、その懐に仕舞いこむように抱き締めた。 「ちょ、真紀っ」 「寝る!」 「なっ、わっぷ」  ぎゅっと閉じ込められて、鼻がぺちゃんと潰れてしまう。 「明日も実技、あるんでしょ?」 「っ」 「おやすみ。誉さん」  なんだよ。寝る! なんて、親みたいに叱ったりして。お前は俺を可愛がりすぎるんだ。離してやんないとかさ。昨日だって、セックスの途中に、何ぶちまけてんだ。一緒に住もうって、普通は躊躇うだろ。初めての恋愛で、男同士、なのに、なんでそんなすんなり一緒に住むなんてすごいことを決めるんだよ。もっと……。 「……」  いや、真紀なら悩まない、よな。真紀はいつだって真っ直ぐ俺に手を伸ばしてた。 「もう、絶対に離さないかんな」 「だから! それはこっちのセリフですってば! 寝るっ!」 「はーい!」 「笑わないで寝る! 明日の試験落ちないように!」 「はいはい」  そこからしばらく続くお説教すら心地良くて、ぎゅっと抱きかかえられたまま、真紀の腕の中で眠った。あったかくて、ゴツゴツしてて寝心地悪くて、居心地が良くて、そして、俺しか知らない最上の懐の中で。  今日は「修理」に関しての実技試験。項目的には第二になる。昨日、ぼーっとした脳みそで挑んだ実技の内容を思い返しながら、洗面所で髪をセットしてた。っていっても、今日は真紀のうちにいるからワックスはなくて、ブラシで整える程度だけど。 「誉さん、これ、買っておきました。ソフト仕上がりの」 「……え?」 「この前、俺のハードのじゃ不便だって言ってたでしょ?」  洗面所のところ、整髪料や歯ブラシたちが並ぶ場所に割り込むように置かれた真紀が使っているレーベルのと同じデザインのワックス。でも、ソフト仕上がりだからか色味が柔らかい水色になっていた。 「……」 「コーヒー淹れました。今日は、クロワッサンはないんですけど。もし食べたかったら、今」 「な、なぁっ! あのさっ!」  クロワッサンはいいよ。そうじゃなくてさ。それじゃなくて、ワックスを買って来てくれただろ? あのさ。 「なんで、前に、俺が服とか荷物を置くのは、いらないって、その、言ったんだ?」  前のめりで、洗面上から飛び出す勢いで真紀に詰め寄っていた。前に服のサイズが微妙に違っているし、いちいち借りるとか、貸すための用意とか減るから、置いておけばいいじゃんって、言ったことがある。  今はとりあえずいいって、断られてしまったけれど。 「あぁ、あれは」  少しだけショックだった。真紀の居場所に俺のは置いちゃいけないんだと言われたみたいでさ。 「誉さんの彼シャツ見てたかったから」 「……」 「生脚綺麗だし、少しだけダボつくでしょ? 俺でもちょっとオーバーサイズなやつなんです。ほら、お店によって服のシルエットって変わるから。それで、大きめのを着てもらってました」 「んなっ、なっ、なっ」 「裾、ちょこんとか可愛くて」  なんだよ、その理由。だから、真紀さんジャストサイズは持ってこられてしまうとやだなぁって思ったんです、とか。思ったんです、とかさ。 「は、あああ?」 「ぶっ、ちょ、びっくりするじゃないですかっ」 「びっくりしたのは俺だよっ」  きょとん、なんてして。 「知らないですか? 萌え袖って」 「知ってる!」 「彼シャツっていうの」 「それも知ってる!」  じゃあ何にびっくりするんだって、顔しやがって。知ってるっつうの。自分はインポだと思い込んでどうにかならないかと動画だなんだと見まくって試しまくって、そういう知識も豊富なんだぞ、なんてドヤ顔すんな。 「誉さんが萌え袖したら、最高なんですよ」 「……そんなわけ」 「貴方は知らなくていいんです。俺だけで」 「……なんだそれ」  無骨なごわごわ作業着ごと抱き締めやがって。それ言ったら、こっちは、ほんのり香る真紀んちの柔軟剤にすら嬉しくなってんだからな。 「まだ、現場には鴨井さんがいるでしょ?」 「! そ、そんなこと言ったら、お前だって、三里がっ」 「?」  知ってるんだからな。職場に来て微笑みあってただろ? だから、俺はお前が初恋を叶えるんだろうって身を。 「あぁ、あれは、謝りに来てくれただけですよ。俺が強張った表情をしたから。ただそれだけです」 「……」 「本当です。それと、ありがとうって、言いました」  笑いながら、抱き締める腕が力を込める。 「今、あそこで迷ったからこそ、とても好きな人を見つけられたって」  あの日、眼鏡をなくして途方に暮れていたからこそ、裸の瞳で見つけることができた。 「だから、ありがとうって」 「……」 「試験、頑張ってください。ちゃんと、イイコで貴方のことを待ってますから」  額にキスをしてくれた。だから、俺は、俺が選んであげた眼鏡を取り上げると、その眉間にキスをする。 「なぁ、真紀……」  本当に、本当に? 「はい」 「俺で」 「貴方が好きです」  本当に、俺も、真紀が好きだよ。 「うん」

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