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良い子でお留守番編 3 まるで今生の……
明日、世界が滅亡すると知った人間の顔ってこんななのかも……なんて思えたりして。
「そんなに気にすることないだろ」
まぁ、それは大袈裟だけれど、ずっと楽しみにしていた修学旅行前日、準備万端、イザ、明日! って鼻歌混じりに本日数十回目の荷物チェックをしていた最中、言い渡された「明日は行けません」の言葉に絶望する小学生はきっとこんな顔をしている、とは思う。
「仕方ないじゃん。っつうか、すげぇ、抜擢じゃんか」
「……」
「整備部のほうはチーフが行くんだぞ? なのに、営業部からはお前って、相当」
「気にするに決まってるっ!」
修学旅行じゃなくて、新型車の発表展示会に行くことになった。とても名誉なことのはずなのにこの落胆っぷり。遠足がてら楽しんで来いよっていうつもりだったけど、言った瞬間、ちょっとでも突付いたら、号泣しそう。
それが可愛いなぁ、なんて。
俺の言葉に今更のタイミングで答えた真紀の情けない顔を見ながら、あまりに漂いすぎる悲壮感にそんなことを考えていた。
「頑張って、わが社の新型注目車両のお披露目して来いよ」
「やだ」
「あのなぁ。あの車すっげぇカッコいいじゃん。デザイン最高だった。後ろの曲線とかさ、セクシーじゃね? いいよなぁ。お高くてさすがに手は出せないけど」
新技術に新スタイル、既存の車両ラインをアレンジしたのではなく、全くの新ライン。今年から数年はきっとそれをメインに押していくんだと思う。それの展示会に参加するなんて名誉なことじゃんか。
つまりは、その車体をしっかり見学して、どんなもんかを肌身に体感して、しっかり売り込んでくれよ? って期待されてるってことだろ?
「いやです!」
「んもー、マジで小学生みたいにダダ捏ねやがって」
「だって!」
「わーかってるっつうの」
出張はたったの一週間。明日の朝、始発で出発して六日後の夜、八時ごろの帰社予定。その間、俺はお留守番ってことだ。一箇所ならそう長くはないけれど、今回二箇所で展示発表が行われるため滞在が長くなってる。
ぶーたれて、しょげた顔したいのはこっちだっつうの。あの新車、すげぇ間近で見てみたいし、新技術のことだって知りたい。あとで、技術面に関してはチーフからレクチャーあるだろうけど。試乗とかしたいし、触りたいのに。
「不貞腐れた顔すんなって」
「……無理」
今日は、敬語ないんだな。
ダダっ子になった真紀は完全うちモード。もちろんシチサンじゃなくてリラックスした格好で、店舗の誰も見たことがなさそうなへの字の口でブスッ垂れてる。
「ご機嫌斜め?」
「真横に傾いてます」
「そんなにかよ。今朝まではそこまで駄々っ子じゃなかっただろ?」
でも、真紀のワガママは俺にとっては愛しいだけだから、不貞腐れた恋人をベッドの上に押し倒して、跨って、さらりとした髪の中に手を差し込む。瞳の中を覗きこみながら、ほのかに熱を感じた股間のところを摺り寄せて。
「だって、今朝、チーフと明日以降の話してたら、電話が」
「?」
「もしも緊急の時、等の対応で、サブチーフにも難しい案件があった場合は」
「あ……もしかして」
「そのもしかしてです」
鴨井が来る? わけね? それでここまでヘソを曲げたのか。なるほど。
「ふーん……」
なるほど、だけど、むしろ、俺がへそ曲げるぞ。不貞腐れて、口への字にしたいっつうの。
「俺、そんなに信用ないわけ?」
「! そういうわけじゃっ」
「俺もそれなりに整備士としてやれてるんだけどなぁ」
「!」
まだ、一級の試験は受けてないけれど、次の募集の時には手を挙げるつもりでいる。チーフもサブチーフも太鼓判押してくれてるし。そんな俺がサブチーフとすげぇ頑張って仕事こなしても、まだ足りず、隣の店舗からヘルプ呼ばないといけない、なんてふうに思われてんだ?
「俺の、最後の男は真紀だっつったの、信じてくれないんだ?」
「!」
「あっそ……じゃあ、俺の最後の男は真紀じゃないわけね」
「そうですそうです! 最後の男です!」
ぎゅっと甘い感じにホールドしてるのに、そんなでかい声出すなよ。鼓膜が破けるかと思ったじゃん。
「っぷ」
「なんで笑うんですか」
「うーん」
満足した? 曲がったヘソは元の位置に戻った? 言葉使いが敬語に戻ってる。
「別に? 仕事は大丈夫。鴨井がヘルプに来る隙なんてねぇよ。そんで、恋人の真紀を待ってちゃんと、イイコに留守番を……し、おい、ちょ、どこ触って、うわっ」
するりとルームパンツの中、どころか下着の中に忍び込んできた手。真紀のことが大好きな孔の口をその指先でくるりと撫でられて、腰の辺りがジンと疼いた瞬間、ぐるりと視界が回転して、気がつけば、ベッドの上で真紀に組み敷かれてた。
「おい、こら、明日始発だろ」
「はい。始発です。朝、四時ごろにはうちを出ようと思っています」
「ならっ……ン、ぁ、ちょっと」
「まだ、あと、六時間あります」
その六時間は睡眠用の時間だろうが。
「昨日、散々、したっぁっ」
「うん。だから、柔らかい」
「ンっ」
指、気持ちイイ。真紀の指が昨日よりも性急に中をまさぐる。
「一回だけ」
「ぁっ……ン」
たくさんセックスしたのに。溢れれるくらいにイチャイチャしたはずなのに、そこは知らんぷりで真紀の指に吸い付くから。ほら。
「あ、あぁ、あああっ」
真紀のペニス欲しさに、腰が浮いて、昨日たんまり可愛がられたくせに、物欲しそうにヒクついた。
朝四時、寝たの数時間。この時期になると朝はもう冬みたいだな。
「マフラーしてけば?」
「平気です」
「寒がりのくせに」
ふわりと微笑む真紀のなんと清々しいこと。こっちは気だるくて仕方ない。
「誉は、平気?」
言いながら、腰のところをひと撫でされて、玄関先で甘い声を零してしまう。まだ、残ってる真紀の感覚をその掌に引っ張り出されそうになるから。
「バカ……」
「うん。ごめん」
「俺が、もう一回っつったんだろ」
「嬉しかった」
一回だけって言われたのに、まだ中にいて欲しくて、孔の口を窄めて、中出しをねだった。
「気をつけて」
「貴方こそ」
「俺は……」
たったの一週間。そんくらい、「あー久しぶりにぐーたらすっかなぁ」なんて満喫したっていいだろ? それなのに。
「真紀」
「はい」
「ここ」
「……」
作業着からはこれなら見えないだろ? 首回りがざっくりと開いたロンTだからさ。
「キスマーク、つけて?」
自分から吸血鬼にねだるように首筋を晒して、真紀の印をここにも残していけと、おねだりした。
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