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良い子でお留守番編 7 ひん剥いて、見せて
十日間の留守番はちょっと俺の頭のネジをゆるゆるにしたんだ。
なんか、俺、絶対テンションがおかしなことになってる。
「……」
やっぱ、やめておけばよかったかも。さすがに、真紀だって引くかもしれない。俺みたいなのがこんな格好しても興奮しないかもしれない。こういうのってさ、レンとか三里さんみたいに、身体のラインが華奢なほうが似合うに決まってる。
うん。やっぱり、これはさすがにテンション上げすぎた。あいつが帰ってくる前に着替えよう。タガが外れすぎてる。
「どなたか、いるんですか?」
「!」
こんな――。
「誰……え? 誉、さん?」
こんな格好、いくら真紀でも萎えるだろ。
「誉、さん?」
出張から帰社する前に着替えないと、もう帰ってきちまう。
「本物の、誉さんだっ」
「! 真っ……っ」
営業部、整理整頓された真紀のデスクでひとり待っていた。真紀は俺がうちで待ってるって思ったんだろ。イレギュラーの残業組か、それとも消し忘れか、もしかしたら泥棒かもしれないと、怪訝な顔でそっと部屋に入ってきて、そして、まだ作業着姿で待っていた俺にキスをした。
衝動的で、激突するような、そんなキス。
「ン、くっ……ン、ぁ、ふっ」
「誉さん」
痛いくらいに抱き締められて、唇がびしょ濡れになるくらい激しくキスされて、クラクラする。そんなに濃く舌を絡められたら、息できない。
「今日、残業だったんですか?」
「……待ってた。その、お前、帰社してから帰るっつってたから」
真紀の吐息が熱くて、またすぐにキスされそうなこの距離だと、唇に触れるその熱に蕩けそう。額で触れ合いながら、何かを噛み締めるように目を閉じる真紀を見て、恋しさが溢れそうだ。
「だから、こっちで待ってたほうが早く会えるかなって」
「うん」
「思ったんだけどっ、ちょ、ちょっ」
溢れそうなんだけど、話をしながら、もうトロリと熱っぽく見つめてくる真紀の手を慌てて止めた。
「ダメ?」
「っ、ダメ、じゃない、けど」
「けど?」
帰ってくるの、早いんだよ。もう。
「ちょ、ちょっと待ってて。着替えてくるから」
「脱がせたい、ダメですか?」
「だ、ダメっ」
「なんで?」
ぐるぐるする。十日ぶりの真紀なのに、今すぐひん剥かれたいのに。
「ちょっと待ってて」
「なんでです?」
「その」
「その?」
そう、十日ぶりの恋人にテンションがおかしかったんだ。
「まさか、鴨井に」
「な、な、なんもないっつうの! そうじゃなくて! そういうんじゃなくてっ」
「……」
「その」
だから、ホント。
「そのっ、真、真紀が言ってただろ? やらしい格好した俺が見たいって。そんで、けど、ちょっと失敗したっつうか、マジでおかしいから、ドン引くから、ちょっとだけ待ってて」
「? 失敗って」
「いや……その」
「俺が、ドン引くんですか?」
おもわずツナギの作業服のチャックを手でぎゅっと握り締めた。中身が、見られないようにって無意識に防御してみたんだけど、ちょっと逆効果っていうか。
「俺に見せようとしてくれてたのに、見せてくれないんですか?」
真紀の声色が変わる。甘くて、腰に響く低い声。それとチャックを握る手に触れて、重なった掌の熱さに、下半身が疼くんだ。
「やらしい格好してくれたのに……」
「ぁっ……ちょ、やめっ」
欲しい、欲しい、真紀が欲しい。早くひん剥いて、愛してよって、暴れだす。
「見せてよ」
「んっ」
ズルい。こんな飢えた身体に、そんな色気たっぷりの声で、柔らかい唇で、耳にキスするなんて。
「誉」
「っ……ぁ、ン」
名前を呼ぶなんて。
「これ、買ってきたんですか?」
「そ……だよ」
留守番している間に買ってきた。なんか、人に見られたくなくて、ネットで注文したんだ。
「この、やらしい下着」
「んっ」
ツナギの作業服の前を全部あけられて、羞恥に肩をすくめた。腰紐を指先でクイッと引っ張られると、紐と意味なんてほとんどうないような小さな布がきゅっと吊られて、恥ずかしさと熱とが一緒に膨らむ。
普段、仕事の時は裸にツナギなんておかしな格好はしない。Tシャツを着てないとごわついていて、着心地は決して良くはないから。そのはずなのに、硬い布が肌を擦るのすら興奮した。
「や、だ……あんま、見る、なよ」
「なんで? 俺のためにしてくれた格好なのに」
目を細めて、じっくりと鑑賞されて気恥ずかしさに頬が焼けたように熱くなる。裸で、布切れっていえるほどの小ささしかない、やらしい下着を身に着けて。仕事着であるツナギを剥かれてる。
「だって、変」
「変なわけない」
見られてるだけでイきそう。仕事場の、しかも真紀が使ってるデスクでほぼ裸と同じ格好してるなんて。
首筋にキスをされただけで、そのお情け程度にしかない下着の布にじわりと興奮が滲んで沁みた。
「ン、真紀」
「やっと触れた」
「あっ、ぁっ……真紀」
ずっと触りたかった。真紀の体温を感じたくて、ずっとたまらなかった。
「っ、誉」
真紀も、そうだった? 俺のやらしい姿見たくておかしくなりそうだった? 俺の体温を感じたくてたまらなかった?
俺みたいに。
「真紀……」
真面目でお堅いスーツに包まれてるそこに掌を重ねて、芯を確かめるようになぞると、真紀がしかめっ面をした。息を詰まらせて、苦しそうに俺を見つめ返してくれる。
「なぁ、真紀、俺のこれ、やらしかった?」
蝶結びの腰紐を引っ張れば、すぐにほどけるようなあられもない下着。そこは興奮したら一目でわかるように、男用とは思えないレースで透けている。少し感じて反応しただけではみ出るような、はしたない下着姿を、ごわつく仕事着で隠した恥ずかしい俺は。
「気に入った?」
「もちろん……です」
イイコイイコって撫でると掌の中でムクムクと真紀のが反り返ってくれる。
「よかった」
「誉、さん」
「じゃあ、俺も見たいのがあるんだ」
かわりばんこ、だろ?
「真紀のやらしい顔見せて。俺の舌で気持ち良くなるとこ、見たい」
次は、俺の番。この掌の中にある、これ、苦くて熱いこれを舐めたい。
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