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ホワイトデーSS 8 真っ赤なホワイトデー

 すげぇ、なんか、エッロいセックスしたな。 「……」  起き上がると奥んところがジクジク疼く感じ。まだ、小刻みに真紀がペニスで奥を突いて抉じ開けてるみたいな、そんな甘い疼きがそこにじんわり滲んで残ってる。  何回、したっけ。中出しセックス。  イチ、ニ、サン……セックスとしては三回、そんでイった回数なら俺はプラス一回。そんで、中トロトロのまんま風呂場で、掻き出すっつって、そこで一回の、俺だけやっぱプラス一回。もう出ないって、甘ぁい声で啼くくらいにはたんまり。 「ン、誉、さん?」 「……おはよ」  たんまり愛された。 「おはようございます」 「ン……」  のそりと起き上がった真紀がそっと触れるだけのキスをする。目を閉じて、唇が触れて、離れて、目を開ければ、そこにはシチサンの七側の髪をもさっと寝癖でボサボサにした真紀がいた。  俺が、朝方までたんまり、愛した男だ。  そんで、朝方までたんまり、俺を愛した男。 「どこも痛くないですか?」 「痛くねぇよ。けど」  痛くないと聞いて、安心して笑った真紀が、言葉の続きを待ちながら表情を曇らせた。痛くないけど、どこか怪我? 体調悪い? 頭痛とか? そんな感じに。 「真紀がまだ中にいるみたいで、気持ちイイ」  今度は俺からキスをした。真紀に、ちゅ、なんて可愛いリップ音つきのキスをしてから、鼻先で真紀のスッと通った鼻先を突っついて、チラッと視線を真紀へと向ける。  たったそれだけ。  朝のキスして、鼻でくすぐる可愛いスキンシップ。つい数時間前までにしてた濃厚濃密の激しいスキンシップに比べたら可愛いもんなのに。 「っぷ、すげぇ、真っ赤」 「だ、だ、だ、だだって」  真紀はうろたえて、真っ赤になりながら眼鏡を探すんだ。 「眼鏡、こっちだよ」 「!」 「ほら、これで見えた? 俺の朝には刺激の強すぎる、あっちにもこっちにもエッロオオオオイ痕のある事後感たっぷりヌード」 「ぶほっ」  ぶほってなんだよ。色気ねぇな。さっきまで垂れ流しだった色気はどこ行ったんだよ。今、目の前にいるのは可愛い童貞感がまだまだ残るシチサン真紀。 「あ! そうだ! ホワイトデー!」 「?」 「おっとととと」  ベッドから抜け出ようと思ったら、腰にあんまり力が入らなかった。でも、まぁ今日はお互いにオフだから一日ベッドでぐーたらしてても支障はないんだけど。 「何か取りますか?」 「あ、うん。コートのポケットんとこ」  真紀が立ち上がり、ソファのところに置いてあるコートからそれを持ってきてくれた。背中についた筋肉がやたらとドキドキする。男っぽくて、俺のことを一晩かけて抱き潰した身体はたまらなく逞しいのに。 「こ! こ!」 「そう、それ」  やっぱりシチサン真紀でさ。 「ホワイトデーの」 「!」 「それを買いに昨日は出かけてたんだ。っつうか、俺がレンの元彼と浮気とか疑ったわけじゃないよな」 「それはないですけど。愛されてるって思ってますし」  あっそ。なんか、そんな普通の顔で眼鏡直しながら、俺、今日晴れるって思ってましたよ? みたいな口調ですごい自信たっぷり発言するなよ。 「でも、何か悩んでるかも、とは思いました」 「……」 「長年一人で悩んでたので、なんとなく、ね。あの、これ、開けてもいいですか?」  どーぞ、そう照れ隠しでぶっきらぼうに答えると、表情をふわりと明るくさせた。たいしたもんじゃないよって言っても、その目はまるでダイヤモンドの指輪でも期待してるみたいに輝いてる。 「……ただのネクタイだよ」  だから、あまり期待が膨らみすぎる前に自己申告した。仕事で使えるだろ? それに一本くらい増えたってかさばるもんじゃないから。気に入らないのなら、タンスの肥やしにでも、紐にして使ってもらってもかまわないしって、一人で照れを隠すように何かしゃべり続けてる。 「……真紀」 「……」 「真、ちょ! おい! 鼻!」 「ふへ?」 「鼻血!」  ただのネクタイから何を想像したら、そんな鼻血出るんだよ。っつうか、お前、昨日、激しすぎてのぼせたんじゃないか? 普通、鼻血なんて出さないだろ。 「アホ、びっくりするだろ」 「はっへ、ひほっへ、ひうひはは」 「っぷ、わっかんねぇよ」  鼻を押さえてるから何を言ってるのかちんぷんかんぷんだった。 「……ホント」 「ふひはへん」  変なの。さっきまでのとてつもなくエッロくてやらしくて卑猥で、スケベなセックスしてたベッドが、急にふわふわに所帯じみた。 「だから、わかんねぇって」 「嬉しいです。生まれて初めてホワイトデーにいただきました」 「そりゃよかった。なぁ、真紀」  膝枕にくつろぐ鼻血男の真紀が呼ばれて、顔をこっちに向けた。もう、止まった? 口をポカンと開けてどっか間抜けで、どこまでも平和な朝のベッドに、朝からのぼせ鼻血をかます俺の男。 「……愛してるよ。それと、ネクタイを紐にして、俺のこと縛ってみる?」 「ぶほ! げほっ!」  今度はむせる忙しい真紀に笑って、おでこにキスをすると、笑ってた。俺も笑ってそんで朝の日差しがキラキラ輝いて綺麗だった。 「ふん、ふん、ふーん」  シチサン眼鏡の鼻歌はシチサン眼鏡らしいダサさなんだな。 「ふんふふふん」  そんでもって何歌ってるのかわかんねぇし。 「天見様、開通作業終わりましたので」 「あ、はい」  携帯ショップで、水没スマホを機種変した。思わぬ出費だったけど、まぁ仕方ない。それに付き添う真紀は今日一日ご機嫌鼻歌が続いてる。俺があげた青色のネクタイにテンションはずっとあの調子だ。 「――以上になりますが、何がご不明な点はございますか?」 「いえ、大丈夫です」  あんなにご機嫌になるんじゃ、職場にしてくの禁止だな。ネクタイ自慢とかしそう。っていうか、ネクタイをこれ見よがしにちらつかせそう。 「機種変終わりましたか?」 「うん」 「でも、電話帳の入れ替え作業とかはこれから?」 「あー、いや」  あのスマホ、もう繋がってないアドレスとか電話番号とか山ほどあったんだ。真紀と親しいレンとかの履歴で埋没して見かけることもなかったけど。 「いいや。実家と、レンと、あと職場と、それと」 「……」 「真紀だけだから、すぐ済むし」  他はもういらないだろ? 男関係はもう繋がる必要ないんだし。 「誉さ」  その時、まだ着信音の設定すらしてないスマホが、軽やかな鈴の音色を奏でた。まだ番号しか表記されてないけど、これはたぶん、知ってる番号。っていうか――。 「も、」 『やっと繋がったあああ! ちょっとおお! 誉!』  レンだ。  もしもし、を言う暇もなくいきなり怒涛の勢いで話してる。 『ねぇ、なんか元彼からすっごい連絡来るんだけど! それで彼氏と険悪になりかけたじゃん! なんなの! なんで、誉と連絡取りたいってなんなん!』 「……あ」 『なんかしたの? ねぇ! あいつ、マジだからとか、あの声たまんないとか、何? 声って何? マジであれウザいんだけど!』 「あー……あはは」  つまり、連絡が取りたいけど、やっぱり水没スマホは不通になってたらしく、レンのところにそのお尋ねが言ったらしい。あの一回だけがたまたま繋がった。そんで思いっきり電話越しにセックスしてるのを鑑賞? されてた、わけだ。 「な、なんでもない、です」 『そんなわけあるかああああい! 声ってなんだ! 声って! ねぇってばああああ!』  笑って、誤魔化せるかな。  声ってなんだろうね。あはは。っつって。 「へーき、へーき。それに、俺には恋人いるんでーって言っておいて」 『や、むしろ、声ってなんだっつうのー!』  声は、声でしょ。  とりあえず、これで、一件、レンは登録簡単になった。あとは両手の指で事足りる人数だから、すぐに終わる。  ちらりと隣を見れば、レンのあのでかい声じゃ丸聞こえだっただろう真紀と目が合った。声、だってよ。レンの元彼がそう言ってんだって。 「これはお前のせいだからな」 「ぐっ」 「俺のせいじゃないし」 「うぐっ」  牽制のつもりだった真紀のセックス電話公開はむしろ逆効果だったってことだ。 「けど、いいんじゃん? 番号は着拒否してるし。それに」 「?」  ネクタイをクンって引っ張った。そして引っ張られてよろけた真紀にドサクサ紛れでキスをした。 「愛してる人がいるんで……」  今、目の前に。そう、唇が離れる瞬間、伝えたら、思わず笑うくらい、シチサン眼鏡の真紀が顔を真っ赤にしていた。隣にならぶ携帯ショップのラブラブホワイトデーイベント用のハート型の風船みたいに、ほっぺたを真っ赤にしていた。

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