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雨の日イチャイチャ編 3 あの手で、あの口で、あの舌で
美術館のあの独特な静けさの中、眼鏡越し、隣に立つ男の仕草一つ、瞬きひとつに胸が高鳴って、心音すら聞こえそうでさ。だって、なにそれって言いたくなるくらいに良い男が隙だらけの顔して笑ってるんだ。その後のカフェでだって、嬉しそうにふにゃふにゃに笑ってた。
――美味しいですね。ここのパン、焼きたてなんだって書いてありました。
パンを摘む長い指。
――サーモンのマリネも美味しいです。誉さん、ワイン飲みたくなったでしょ? 帰りは運転しますから、飲んでいいですよ?
美味いもん食べてニコッと笑う、大きい口。
――飲んでかまわないのに。あ、そうだ、さっき行きになんだか雰囲気のいいワイナリーがありましたよ? お土産に買って行きましょうか。そしたら二人で飲める。おつまみにチーズと、誉さんの好きなサラミも買って。あ、それと。
饒舌な舌も。
「……誉、さん」
性的なものとかさ、芸術の世界には一切無縁そうななのに、なんでだろうな。
「ほま……れ、さん」
お前からむせ返るくらいに感じたんだ。
ほの暗い美術館館内を歩いている時、ほわりと灯る照明に照らされるお前の横顔を見て。カフェで食事を楽しむ指先、唇を見て。なんかさ。
「したい…………ダメ?」
したくなった。
「真紀……」
お前の眉間のところにある傷に触れて、キスをしたくなった。
「真紀」
帰り道、美術館の中にあるカフェを出たのは二時半くらい。そこからさっき話していたワイナリーに寄って、ブラブラと買い物をし終えたのが四時ちょっと前。そんで、今は、帰りの途中、山の中のうねり道を半分くらいまで来たところ。けっこう大きな展望台があった。今はそこでちょっとだけ休憩。
ちょっとだけ、な。
「誉さん」
「ン、んっ……」
「ほま、……っ」
「ン、真紀」
運転席にいる真紀へと身を乗り出すようにキスをした。行きにした軽めのじゃなくて、濃くて深いやつ。
行きもここを通った。ちょうど、その時は……そうそう、映画の話から、ガキの頃の話になって、同じ歳だから、育った場所は違うけれどって話題に。それぞれ違うものが好きだった。でも俺の学校でも真紀が愛読書にしていた本は流行っていたし、真紀は俺が好きだったプラモのアニメを見ていた。これをプラモデルで作れる人はすごいなぁと思っていたらしい。
会話が弾んで。
それぞれだけれど、どこかで繋がっている思い出の引っ張り出しあいはすごく、楽しかったっけ。
あ、でも、行きの車の中、真紀は運転するのけっこう上手だから、セックスも上手いとか、思ったから、結局のところ、最初から、したかったんだ。
「……真紀」
したい。
「っ」
真紀と、したい。
身を乗り出し。耳元に鼻先を擦りつけ、指先で、スラックス越しに真紀の股間を引っ掻いた。カリカリって、爪で猫みたいに。
真紀がしたくなるように。車の中、カーセックスなんて、けしからんと言い出しそうな生真面目な男が乱れるようにねだって、性的興奮がきそうなスイッチを探して。
「真っ」
「煽らないでください」
「っ」
一生懸命にスイッチを探す手を掴まれた。手首を掴まれて、そのまま内側に歯を立てられ齧られた。
「んっ」
目が合うと、ゾクリって、背中をこの後の行為への期待感と興奮が駆け上る。
「あ、真紀っ」
だって、カリカリ、爪で引っ掻いた真紀の股間は、もう、硬かった。
「誉さんっ」
「う、ん……」
体勢が逆転する.身を乗り出したのは真紀で、助手席のシートに俺が押し付けられて、うなじへのキスで誘惑されたのが俺。
「ずっと、したかったのを我慢してたのに」
「ぁ、真紀っ」
七三眼鏡のくせに、律儀で真面目なくせに。
「今日の誉さん、やたらと色っぽいから」
「ぁ、ダメ、真紀っ」
なんで、人の下着の中へこんなに器用に侵入するんだよ。
「ずっと、したかったの、我慢してたんですよ?」
「あ、やば、い、その低い声、ダメっ」
「……誉さん」
きゅぅん、って身体の奥が力を込めて噛み締める。
「美術館で、芸術作品を見つめるところを見ながら、気持ち良さそうに喘ぐ貴方を思い出したり」
「ぁ、ダメ、ぁ、扱く、なって」
ペニスのくびれを小刻みに擦られて、車内にぬちゅくちゅやらしい水音がし始める。
「カフェでドリンクを飲んでる唇を見つめながら、キスの時を思い出したり」
「ぁ、も、出るって、ぁ、なぁっ」
慌てて手首を掴んだけれど、先のとこだけを包み込まれて刺激される。巧みな掌にクリクリとその丸みを柔く、されてるだけでも、もう。
「あぁ、あと、あの唇にフェラチオ、してもらう時のこととか」
「あ、あ、あぁっ……あっンんんんんんっ」
低く掠れ気味の声で耳にキスされながら扱かれたら、我慢なんて、無理だろ。
「あ……っン」
全部を真紀の手が受け止めてくれた。大きな手、骨っぽく細く綺麗な指が俺のをぎゅっと握って、手を繋ぐとすごくあったかい掌の中でイかされる。
この手で、さっきまでパンちぎって食べて、美味しいって笑ってた。
「あンっ……ン、真紀」
「ずっと、美術館の前、運転してる貴方の横でずっと、今日一日、そんなことを考えてたんです」
さっきまでヨーロッパのモダンアートの解説を読んで聞かせてくれた声で、抱きたいとずっと考えてたって囁く。
「誉さん」
そして、入館案内をしてくれた女性にニコリと笑ったその唇で、たった今、俺が吐き出したものにキスをした。
「あっぁっ……指っ」
「もっと足拡げて、誉」
あの声が、俺に――。
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