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雨の日イチャイチャ編 5 マジで、恋する、鼻血の君に。

 休み明け、雨を降らせた続けた分厚い雨雲が空に漂う雲を全部かっさらっていたかのように、今日一日、空は晴れ渡っていた。爽やか青空、だった。それと――。 「すんませーん。これ、今週の整備部シフトなんすけど、ちょっと変更あったんで持ってきました」 「はっはい! はいはい!」  それと、湿気にやられることなくビシッと分かれる、七と三。  すげぇな、もう夕方なのに、まだこれっぽっちも崩れることなく、ちゃんと七と三のままって。今日は休み明けだから、営業の真紀は忙しかったはずなのに。整備の俺は、別にそう変わらない。皆でフォローし合う感じだからさ。けど、営業は顧客をそれぞれが抱えていたりもするから。休み前、受け持ってる顧客の車検のことで頭抱えてたみたいだし。  それなのに、一日の終わり、随分日が伸びて、外はまだ暑さの残る夕陽がぎんぎらぎんに輝いているこの時間帯で「はい!」なんて元気に朝一レベルの元気な返事をされた。  晴れ渡っていた空と同じくらいすっきり爽快な笑顔。  うっれしそうな顔。 「はいはいっ」  はい、を何回言うんだか。 「シフトチェンジ、ここと、こっちが入れ替わるんで、何か担当とかで都合あわせるのが必要だったら」 「はい! 伝えます! えへへへ」  めちゃくちゃ締まりのない笑顔。昨日の真紀とはまるで別人だ。俺たち付き合ってるんだよな? 一緒に暮らして、朝だって、イッチャイッチャしてたよな? そんで、俺の腰に爪痕くっつけた犯人だよな。  ――ご、ごめんなさい!  ――? 何? 急に。  美術館のドライブデートにめちゃくちゃ盛り上がった後、土産に買っておいたワインとチーズそれとドライトマトのサラダ。諸々でゆったり夜を過ごして、一日分の疲れを流してた時だった。  ――こ、こここ、これっ!  ――あぁ……これ?  慌てた表情の真紀が指差したのは俺の腰んとこ。真紀が鷲掴みにした指の痕が赤く残ってた。  ――あわわわ。どうしましょう! これ。  リアルで「あわわわ」って言う奴そうはいないだろ。  ――んー? これ?  慌てた感じ、困った顔で、シチサンのインパクトで隠れてる色男が台無しだった。  ――どうしようか。  ――!  ――すっげぇ痛かった。腰骨砕けるかと。  ――ひぃ!  やった張本人が悲鳴上げるのも。  ――痛くて、なんか、クセになりそう。  可愛くてさ。自分で腰をくねらせて、誘うように、まるでストリッパーのごとくヒップラインを自分の手で撫でて、「あぁン」なんて鳴いてみたりしたら。  ――ぶごほぐっ!  ――ちょ! 真、真紀っ! おい!  照れるとか、ちょっと興奮するとかならあるけど、さすが、真紀だ。まさか真っ赤になって自宅の浴槽で溺れるとは思わなくて、今度は俺が慌てた。 「あ、あと、さ……」 「は、はい! えへへへ」  信じられる? なぁ、このデレッデレに締まりのない笑顔の七三が、昨日、雨の降りしきる屋外展望台の駐車場でセックスしたんだ。恋人の腰鷲掴みにして、指の痕がつくくらいに激しく攻めて、その恋人がトロトロになるくらいのエッロいセックスを、車の中で。 「今日、この後」 「! ひゃい! いたっ」  っぷ、ベロ噛んだ?  すぐに真っ赤になるとこ。職場で話しかけただけで嬉しそうにデレるとこ。「はい」って元気に返事をするとこ。初々しいとこ。その全部が気に入ってる。 「平気?」 「い、いひゃい……」  可愛いよなって思う。 「なぁ、今日って、他の営業は?」 「あ、ひゃい、みひゃひゃん、でひゃらっひぇへへ、へへへ」 「ちっともわかんねぇよ。帰ってくる? 来ない? 真紀、一人?」  真紀は首を横、横、縦と、小刻みに振った。たぶん、帰らない。来ない。真紀一人、ってこと。 「ふーん、あっそ……」 「ひょひゃれひゃん?」 「こら、ここでは苗字」  あ! って顔をした。それも可愛いと思う。 「ベロ、噛んじゃった?」 「!」 「べーって、して……」  可愛くてさ、かまいたくなる。からかって、悪戯したくなるんだ。 「ン…………っ」  だって、差がすごくてクラクラする。  カーセするくらい自分の欲に忠実なくせに、初々しさがあるってさ。ほら、ベロチューなんて、もう何十回、何百回ってしてんのに。 「んっ、治った?」  まっかっか。甘い完熟トマトみたいに、まっかっか。 「すっげぇびっくりした顔」 「だ、だって」  ここでだってセックスしたことあんじゃん。ツナギの下にエッロい下着身に着けてさ、お前が帰ってくるのを待って、そのままここで、ほら、あのデスクのとこでセックス、したじゃん?  他にも俺の職場である整備工場でだってしたことあるし? けっこう際どいことをしてるだろ? 「だって、誉さん、なんか……」 「?」  それなのに、日増しに真紀が初心くなってってる気がした。 「なんか、最近、可愛くなりすぎじゃないですか?」  すぐに赤くなるし、すぐに慌てるし、すぐに困った顔をする。 「最近、最初の頃よりも可愛いんですよ。だから、すごい……好きになりすぎるというか」 「……」 「どんどん、好きが増すというか」  こんなシチサン眼鏡なのにな。 「真紀……」 「はい。ぁ、苗字っ!」 「うん。なぁ」  キスでマジで治った? ベロ、痛くないの? そんな可愛い顔で、俺のこと見たりして。 「真紀の体液、飲んじゃった」 「!」  べーって、ベロを出して見せた。もちろん、そんな舌噛んだ唇とキスしたくらいで口の中が血まみれになんてなるわけがない。 「今度は、こっちで、キス、してもいい?」  そのなぁんもない唇を尖らせて、キス寸前の顔をしながら、下腹部を撫でた。 「!」 「なぁ、真紀ぃ」 「! んなっな、ななな、んなあああああああ!」  誘惑に返ってきた悲鳴があまりにも可笑しくて可愛くて、たった五秒前よりも、真紀が好きになる。 「ま、真紀? 鼻血っ!」  鼻血に悲鳴、とにかくいい男は絶対にしなさそうな雄たけびに腹を抱えてバカ笑いをした。夕暮れの綺麗な空、もう上り始めた月にも聞こえそうな笑い声を上げながら、恋しさが溢れて、ちっとも止まってくれそうもなかった。

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