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寝てる後ろで……編 1 最悪な目覚め
――わり、今日はもう疲れたから。
「…………」
あぁ、なんて最悪な目覚め。なんで、そんなん思い出したかな。俺。
あれは何人前の元彼の台詞だっけ? そもそも、その台詞を特定の一人にだけ言われたんだっけか? っつうか、もうその記憶が曖昧になるくらい大昔のこと。大昔だったけど、けっこう痛くてしんどくて、けど、もうすっかりすっきり完治した心の傷。
終わりかけの恋愛ではそう珍しくもない、ノーセックスの超健康生活。そんで精神状況的には超不健康。
夜のお誘いを適当に面倒そうに、さらりと断られて、ざくりと胸を抉り取られる台詞。今見てた夢のラスト、その夢の内容なんてこれっぽっちも覚えてないのに、その台詞だけはものすごいリアリティを持って耳にべったりとこびり付いてた。
すげぇ悲しかったっけ。
ショックだろ。ゲイのセックスはそんな簡単にほいほいできるわけじゃない。準備が編んだよ。その準備を一人で風呂で済ませて、そんで誘ってみたのに、返ってきた台詞がそれ。
しかも溜め息混じりでかったるそうに。
半泣きだったっけ。
すげぇ寂しかったっけ。
だから、あぁなんて最悪な目覚め。
「ンっ……」
最悪な目覚めをやり直したくて目を閉じて、身を擦り寄せる。
「……ぁっ」
もう、今はそんな悲しくて寂しくて痛い思いなんてしないだろって、実感したい。
「っ……」
今はもう愛されて、溢れるくらいだって、感じたい。
「ぁっ……っ……っン」
昨日、抱かれた余韻がまだ残る身体をずらして、真紀の背中に額をくっつけてそのまま身体を丸めた。途端に真紀の体温と匂いに包まれて、朝には似つかわしくない吐息が自分の唇から零れる。その唇で自分の指を舐めてしゃぶった。
それから自分の下敷きになっているほうの、今濡らした手を後ろへ伸ばして、まだ柔い孔に指を挿れた。
「ン、ん」
甘ったるい鼻にかかった声を出しながら、自由に動くほうの手でもう硬くなり始めてた自分のを握って扱いて、先走りを滲ませる。
「ぁ、真紀っ」
真紀のペニスはもっと太くて、もっと強引なくらいに奥を何度も突いてくるんだ。もっと、もっと。
「あっ……ふっ、ンっ」
前立腺は指で何度もいじられてから、それから太いペニスで擦られた。イきそうって懇願しても攻めはやまなくて、中だけでイってよって、男の顔をした真紀に激しく貫かれる。根元まで一気に、埋め込まれるとたまらない。
「ぁっ……」
指じゃ届かない。
真紀の太くてでかいのじゃないと、俺の奥には来れない。
「ぁ、あ」
乳首も好き。舌で舐めて、噛まれながら、前を扱かれると、恋しさが増していく。真紀の舌の攻め方がやばいんだ。
「っン」
乳首を美味そうに舐めて吸うから、なんか喰われてるみたいで興奮する。この男の口の中でびしょ濡れになるくらい、ふやけるくらいにされたくて、乳首を押し付けたくなる。真紀の歯も舌も唇も、すげぇ最高に気持ち良い。
「んんっ」
乳首だけでイけるくらい、真紀の愛撫にぞっこんだ。なのに。
「ンっ……」
自分の指じゃ物足りない。真紀の舌がいい。もげそうなくらい勃起させてくる舌技で可愛がられたい。
「ン」
想像したらまた先走りがじわりと滲んだ。秋になって夜は冷えてくるはずなのに、二人で寝てるからか、一人寝だった頃にはもう冬がけに替えていた掛け布団はまだ夏用のまま。その夏用の薄い羽毛布団の中でさえも、ものすごい湿気と熱が溜まっていく。布団の中でこっそり弄るオナニーの熱に湿っていく。
真紀の指は綺麗で、俺のなんかよりもずっと綺麗で、そんで、俺よりもずっとしっかりペニスを包んでくれる。キスしながら、ペニスの先っぽをくるくるって掌で撫でて。
あの黒ずんでないまっさらな指先で鈴口んとこを抉じ開けられるんだ。
「ぁっ」
思い出しただけでイきそうになる。あの指をあんなふうに濡らしたことがあるのは、俺だけ。真紀のあの指に、手に、可愛がられたことがあるのは、俺だけ。
「ンっ」
もっときつく扱くんだ。
「ぁっ」
けど、俺が悲鳴にも似た声で悦がると、途端に手を止める。そして、やんわり緩く愛撫する。たまらなくて、切なくて、もどかしくて。
「っふ」
もどかしさすら快感に繋がると自分から腰を振って真紀の手の中に擦り付けてさ。
――誉さん、腰、揺れてる。
そう言って言葉で攻める真紀の唇に噛み付きながら。
「ン、んっ」
舌をぐちゅぐちゅに絡ませながら、最近切ったばっかの髪を指先でまさぐりながら。
――誉さん、イくとこ見たい。
射精する。
「ぁ、あっ、あっ……っ!」
あの掌を汚すんだ。俺の、で。
あの掌を汚したい。あの掌に扱かれたい。あの舌に乳首を舐められて攻められて、あの太いので身体の中をいっぱいにされて、あの声で名前を呼ばれながら。
「ぁ……ン、真紀」
射精したい。
「真、紀ぃ……」
「……」
「……横目で盗み見てるだけでいいのかよ」
「!」
やらしく、見えっかな。身じろいで、顔はシーツのとこ。真紀の肩の辺りから覗き込むように。そんで背中を反らせて、腰を高く掲げて、しなやかに伸びをする猫みたいに。
あぁ、それとちょっとだけ上目遣いでさ。
「俺のオナニーしてるとこ、眺めるだけで満足?」
「っ、もー! 貴方はっ」
「だって、めっちゃ鼻の穴膨らんだし」
「そりゃ、膨らむでしょう! 隣で愛しい人がやらしい声を出しながら自慰してたら」
自慰って、なんか、そんな正式ばった単語使われても。
愛しい人って、なんか、そんなド直球に言われても。
「興奮、した?」
「しましたよ!」
「本当に? ぁっ……ン」
押し付けられたのはガチガチに張り詰めて痛そうな真紀の股間。
「本当に、ものすごく、興奮しました」
「ンっ……ン、ん」
その次に押し付けられたのはさっきからずっと欲しかった唇。
甘く濃厚な朝にはヤバいキスをしながら、熱っぽく掠れたあの声が俺のことを切なげに呼んだ。
「誉さんっ」
「あっ……ぁ、ン」
――わり、今日はもう。
「今、もう朝なんですが」
「あっ、真紀っ」
「してもいいですか?」
「ンっ」
「セックス、してもいい?」
そして、頷くよりも早く欲しかった熱に抉じ開けられて、自分の嬌声に昔のその言葉が遠のいていった。
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