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寝てる後ろで……編 3 可愛がられて
「はぁぁぁぁ? 断られたことがある?」
「そりゃ、まぁ、あるわな」
朝から露だっくだくのセックス後、昨日に続き今日もシーツとバスタオルを洗濯して、風呂に一緒入ってのんびりしながら、過去の話をした。終えたばっかのセックスの余韻でふわふわした指先を湯に浸けながら、昔の自分じゃ考えられなかったなぁって、つい言いたくなったんだ。
真紀のせいで変わったって。
「貴方からのセックスのお誘いを?」
「うん」
「断るなんてこと?」
「うん」
「ないでしょ!」
「いや、あるでしょ。っつうかあったよ」
いや、そこで「がびーん」ってされても。あったし。事実だし。そのままそっぽ向かれて就寝だし。
「昔は、な」
「しゅ」
「しゅ?」
「修行僧?」
本気の顔で何を言い出してんだか。真紀の思考がそこに到達したことに笑いながら、バスタブの縁に指先から落っことした雫で水溜りを作ってた。まぁるく膨れる水の塊が崩れて、ツーッとその湯溜まりが伝い零れるのを待ってた。真紀が身体を洗っているのを眺めながら。
「あたた……」
信じらないと顔をしかめて、泡を流したら俺の引っ掻いた痕が痛かったんだろう、またちょっと顔をしかめた。
「真紀は、ない? 俺とするの、今日はもうお腹いっぱい、みたいなさ」
「ないですよ!」
「……そんなきっぱり」
「ないものはないです! あるわけないじゃないですか! 誉さんですよ? こんなに可愛い人が誘惑してるのに勃起しないなんて、それはもうインポテンツでしょう!」
インポテンツて……浴室に響き渡るほど朝からすごいパワーワードを叫ぶなよ。それに可愛い人って。
「キスしたら気持ち良さそうにお尻がきゅんってして」
「ちょ」
「乳首を摘んだら、お尻をあぁぁんなにして、気持ち良くしてくれる、そんなお尻で」
「ばっ」
「あんな可愛い声で、あんな綺麗な顔で、こんなやらしい身体で……勃起しないわけないじゃないですか」
何をドヤ顔で語ってんだ。七三じゃなく、泡をもっこもこに、それこそアフロみたいに乗っけた頭で、勃起しないわけないじゃないですかって、さ。
「ないです。ほら……ね?」
そんな言われてもさ。そんな泡もっこもこでさ。
「ほま、ああ! イタタタタ! 目がぁ」
「いや、だから」
目に泡が入って大慌てで、ダッサいのに。そんなとこも含めてたまらなく大好きで、困る。
「ったく」
「イタタ……」
急いでシャワーの湯を頭からかけてやって、溜め息混じりに濡れ鼠になったアフロマン真紀を見つめた。
「……誉さん」
さっきまでダサかったのに。濡れ髪になっただけでゾクゾクするほどセクシーになる。七三で、泡アフロで、ダサいのにどこまでも愛しくて。
首を伸ばして、真紀がキスをした。俺も湯船から身を乗り出して、舌を伸ばした。
「ン、ん」
「……」
勃起しないわけないそれを、泡だらけでもわかるくらいに聳え立ってる真紀のペニスを握りながら。ぬるぬるとした泡の中、俺の手で扱くとぬちゅにゅちゅと甘い音が浴室に響く。
「すげ、元気」
「だって貴方のヌード見てたら、こうなります」
「……そう? じゃあ、触ったら、どうなんの?」
身を乗り出したまま、湯であったまった肌はピンク色で美味そうに見えない?
「ここ」
「赤くなってる」
勃起しないわけ、ない。こんなセクシーな男が物欲しそうに俺を見てたらさ、身体が熱くならないわけ、ないだろ?
「ン、触って欲しい、から、ぁン」
「触ったら、触りすぎたら、真っ赤になるに決ってんじゃんかあああああああ! ばかあああああ!」
「ちょ、レン!」
「……ばかあああああああ!」
突っ伏して、そんなに泣くことないだろ。子どもじゃないんだから。
「んもー、そんなに泣くことないだろ」
「泣くわ! …………バカじゃないの?」
「なっ」
「バカップル!」
「んなっ」
レンとオープンしたてのスパに来てた。いや、来たんだけど、脱衣所でユーターンした。脱ごうとしたところで慌てながら服を着させられて、そのまま首根っこを捕まれた猫のごとく強制退場させられた。
「レンだけ行ってこいって」
「やだ」
「はぁ?」
「だって、こっちは化粧水やらなんやら必死に肌ケアしてんのに! 久しぶりに会ったら友達のほうが肌艶良くて! そんで脱いだら、ああああんんあドスケベ乳首してんだもん!」
「ばっ」
ドスケベ乳首って。別に、俺は。
「あんな乳首でスパなんて連れてったら、大変なことになるっつうの」
「なるわけないだろ。あのな、レンじゃないんだから」
「あんなドスケベ乳首でサウナなんて入って、汗で濡れた肌にピンク乳首でほっつき歩かれたら、こっちが疲れるっつうの! それでなくても誉はド天然で気がつかないんだから」
どんな乳首なんだ、俺。
「あのね、レン、俺なんて、んぶっ!」
俺なんてそんな危機感持つ必要ないっつうの、って言いたかったのにもうほとんど冒頭部分で唇ビンタされて言えなかった。
「ほら、帰るよ。誉」
「俺はとりあえずいいけど、レン、行きたかったんだろ。だから」
「いいの! スパに行きたかったんじゃなくて、綺麗になりたかっただけだから」
「だから、スパに」
「セックスする」
「そうそうセック……はぁ?」
しゃがんで泣いてたレンがスクッと立ち上がった。振られちゃったから、今夜くらいは付き合えや、と昔懐かしいヤンキー風に言われた。昔、学生時代だとガキの頃にそういうヤンチャをしてた同級生がわんさかいたから。
「まずは相手探して、彼氏作って、セックスする。それが一番可愛くなるわ」
「……」
「恋をして、そんで可愛がられて可愛くなる」
「……レンは」
いつだってレンは綺麗で可愛いじゃん。俺なんて。
「ほら、さっき、愛しき七三に連絡してやったから」
「は? いつ?」
「さっき。スパ出た時。可愛い乳首、守ってやったから、今度ボトル入れにバーに連れてってもらうからなって、連絡した」
「なっ、何」
「そんじゃね」
レンは綺麗で可愛くて、誰からも欲しがられるような魅力的な奴で。俺はセックスしようって誘ってもめんどくさそうに断られるような感じだから、レンみたいになんて、そんなの到底なれるわけもないんだけど。
「バイバーイ!」
「……」
けど、真紀は呆れるくらい、困るくらい、俺を可愛いっていうから。
「ほーまーれーさあああああん!」
だから、まぁ、可愛いのかも? なんて、自分なりにすっごい恥ずかしいけど思ってみたりして。
「……来るの、はや」
恋をして可愛がられたら、可愛くなれんなら、そりゃもうめちゃくちゃ可愛くなれるかもって、スキップしながら、七三眼鏡のもとへと駆け寄った。
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