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媚薬編 5 百戦錬磨とか

 百戦錬磨……ねぇ。  そんなの気にしなくていいのに。  自分は童貞だったからって、レンの今彼みたいな包容力はないからって、なんか気にして、突拍子もないことし始めた、わけわかんねぇ彼氏の鼻を摘んでみる。 「フゴゴ……フゴ」  普通さ。  百戦錬磨じゃない。満足させられてるのだろうか。じゃあ、媚薬でもいっぱいいっとく? みたいに悩み事が突き進んでいったりしないだろ。  しかも、飲んでないし。飲んでなくてあれだし。ただ匂い嗅いだだけで、あんなだったし。俺は飲んであれだったわけで、こいつがもしも飲んでたら……想像すると、こぇけど。  こっちはベッドから起き上がれそうにないっつうの。まぁ、明日も休みだからいいけどさ。  昨日の夜……いや、朝方まで俺を離してくれなかった本能剥き出しの雄の獣の頬を突っついた。 「んー」  なんだなんだ? ってその突っつかれた頬をポリポリと指で掻いてる。  朝日が照らすそんな真紀の綺麗な寝顔に見惚れてた。  ほんと、クソ、イケメン。  シチサンやめたら女が絶対放っておかない程度にイケメン。  けど、童貞。  …………だった。  こんなにイケメンのくせして、こんなに良い身体して、経験ゼロ、だった。  女が放っとかないだろう。着痩せするけど脱いだらすっげぇいい感じに筋肉ついてて、腕とかの骨っぽさの感じが、もう、最高。  それなのに最初はゴムの付け方すら辿々しくてさ。  ネコ、って聞いて、俺のこと、人間でしょう? なんてボケをするくらいなんも知らなかったっけ。 「っぷ……口開いてるぞ……シチサンイケメン」  なんも知らない真紀とのセックスは最初から気持ち良かった。  最初からずっと、最高だった。 「ンー……誉、しゃん……そんな、ダメ……」 「? なんの夢見てんだ」  難しい顔をしたと思ったら、だらしのない、締まりのない笑顔を見せて、ふにゃふにゃと漫画みたいな寝言を呟いてる。 「らめ……れすってば、あ、あ、あ、そんな、そんなこと、まで」  おーい。本当にどんな夢見てんだよ。  夢の中にまで俺登場すんの? 一緒に暮らして、同じ職場で、一緒のベッドで寝て。 「……真紀?」  飽きない?  なぁ、ずっと、俺みたいなのと一緒で飽きない? お前はそのままでいいよ。百戦錬磨じゃなくていいよ。けど、百戦錬磨じゃないのにクソイケメンの真紀は物足りなかったり、他を知りたくなったりしねぇの?  違うセックスしてみたくならないの?  俺なんかでいいわけ?  他は知らなくて平気?  お前ならさ、シチサンやめて、人気サロンとかで髪型やってもらってみろよ。そしたら、男も女も選び放題。いくらでも選べるだろ。それなのに俺一人しか知らなくていいの?  もったいないなってさ……思わないの。  ――思わないですよ。  そう答えてくれるって、知ってる。  俺でいいって言ってくれる。  何度も何度もそう言ってくれる。  何度疑っても。  何度でも、そう言ってくれる。 「誉? さん?」  貴方がいいと。 「大好きで、す……寝てて、くだ……さい」 「……っぷ」 「ふにゃふにゃ」  変な寝言。けどその寝言すら愛しい男に全部を預けるようにその胸に潜り込んで。 「俺も、すげぇ好き」  そう答えて、顔を埋めた。 「な、な、な、何か、俺、俺ってば」  真っ青な顔はゾンビみたいだな。 「俺ええええええ!」  いや、なんだろ。わかんねぇけど。面白い。自分の手首をもう片方の手でぎゅっと握りながら天を仰ぐとか。  その手の甲には結構驚く感じの爪痕がある。 「あの! 何か! 昨日の俺は誉さんの嫌がるようなことをっ」  朝、いや、昼か、起きて、俺のためにと朝飯を、いや、昼飯か、を用意しようとしてくれた真紀が突然洗面所で雄叫びを上げて、俺はその声に飛び起きた。顔を洗おうとして、水で濡らした瞬間、めちゃくちゃ水に沁みた手の甲に恐れ慄いて。  媚薬の匂いを嗅いだ後の記憶がないらしい。  そして泥酔に近かった自分は、乱暴を俺にしたんじゃないかと、そう思ったらしくて、今、その悪さをしたんだろう手を手で掴んで騒いでるとこ。  違うんだけどさ。  ただ、真紀の手にしごいてもらうのが気持ち良すぎて、たまらなくて引っ掻いただけなんだけど。 「誉さん!」  むしろ、悪いのはこっち、なんだけど。 「………………激しかった」 「ひぇエエエエ!」 「本当に覚えてねぇの?」 「……誉さんが媚薬飲んだのは、覚えてます」 「なるほど」 「見たかった……」  四つん這いになって項垂れて悔いる、っていう構図、リアルで見られるとは思ってなかったな。漫画とかでありそうだけど、まぁ、シチサンメガネもリアルで存在するくらいだしな。 「見たかった?」 「もちろんです! 媚薬でとろとろ誉さん! なんて、ご馳走じゃないですか」 「まぁ、確かに食われたな」 「ひぇえええ」 「じゃあさ」  頭を抱えた真紀にしがみついて、あわあわと慌てるその唇にキスをした。媚薬事後に力仕事は大変だからと、定休日の翌日が休みのシフトの日を狙ったからさ。今日と明日も休み。 「もう一回する?」 「へ?」 「手の甲の傷、どうやってついたのか。真紀はシラフで、俺が媚薬飲んで、見せる?」 「!」 「俺はいーけど?」  どうします? 「是、ぜぜぜぜぜ、是非!」 「っぷ、いーよ。じゃあ……」  言いながら、やらしいキスを欲しそうに首を傾げてみせた。 「ン……」  くれたのは蕩けるほど気持ちいいキス。 「真紀……」  そして、蕩けた声で名前を呼んだ。  百戦錬磨とか気にしないでいいよ。 「ン、あっ……真紀」  だって、俺は最初から真紀とのセックスが最高なんだから。

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