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夏祭りだ!編 6 ひん剥きたくて

 良い男って、もう何度も思ってる。  毎日、真紀にハマっていってる。  ――真紀にだけ色っぽく見えたらいーけどな。  そう思いながら、いつだって。 「ちょ、真紀、平気だって。つうか着替えてから」  いつだって思ってるんだ。 「真紀?」  真紀の魅力なんて俺だけが知っていたいって。誰にも気が付かれなきゃいいのになって。 「そこ、座ってください」  下駄の鼻緒ズレ、歩いてる時は痛かったけど、まぁ、仕方ないだろ。絆創膏でも貼っておくしかないな。そのくらいに思ってた。痛いなぁ、ってくらい。けど帰宅したら、けっこうひどくて。 「真紀、いいって、自分で」 「ダメです」  帰宅して速攻で風呂場へ連れて行かれた。浴槽の蓋の上に座らせられて、シャワーの水をかけられて。 「っ」 「真っ赤になってます。相当痛かったでしょう?」 「っ、へ、きっ」  ただ足を洗ってもらってるだけなのに。 「しみたら言って?」 「っ」  とろりとしたボディソープを纏わせた手が俺の足を握る。優しく、そっと足の指に触れられて。 「っぷはっ、あは、ちょ、っくすぐった」 「ほら、じっとしてください。ついでにもう片方の足も洗っちゃいます」  まるで子どもが親に世話を焼かれてるみたいに、足を丁寧に洗われてる。 「疲れたでしょう? 脚、少しむくんでます」 「っ」 「大事にしないと。誉は身体が資本の仕事をしてるんですから」 「っ、っ」  ヌルつく大きな手にふくらはぎを握られ、優しくゆっくり、けど力強く揉まれて。ただのふくらはぎなのにさ。 「っ、あっ」  ゾクゾクした。  真紀の大きな手に好き勝手されるの。 「あっ……っ」  好き。 「っ、っ」  片足ずつ、ふくらはぎを揉まれて、足の指の間を長い真紀の少し骨っぽい指が擦ってく。指の関節の少し太くなったところをボディソープのぬめりと一緒に少し強引に擦られると、ゾクゾクした。ただの足なのに、ただ、足の指なんてところを洗ってもらってるだけなのに。最初、くすぐったかっただけなのに。 「っ、あ」  関節の太いところが通る瞬間、開かれると。 「あっ」  なんだ、これ。 「真紀、ぃ」  いじられてるのは足なのに、奥が切なくなる。 「……泡、流しますね」  浴衣姿、ドキドキした。日中何度も、何度も、目が合って微笑まれる度にたまんない気持ちになった。浴衣の隙間から見える首筋のラインに見惚れた。ただお客さんと、職場の奴らと笑いながら話しているところを見てるだけで、スーツとも、家にいる時のリラックスしてる時とも違う、浴衣姿の真紀にずっとドキドキしてた。  無理だけどさ。  ―― 独り占めしたくなるくらい、素敵です。  良い男すぎて、ずっと俺こそ独り占めしたかったんだ。 「ちょ、真紀っ」  その、今日一日中、何度もドキドキさせる真紀がひざまづいたまま、泡を洗い流したばかりの足にキスをする。 「汚いって」  大きな掌に包み込まれて、ただの足なのに感じて、キュッと力を込めて指を縮めると、その甲のところにできた窪みに水が溜まって。  その水溜りに真紀が口付けた。 「や……め」  舐めて、キスされて、やばいくらいに感じてる。おかしなところにキスされて、どうしようもなく恥ずかしいのに、どうしようもなく興奮する。 「真紀……ん」  だって、ずっと独り占めしたくてたまらなかったんだ。 「誉」  この男がさ。 「っ」  真紀が腰をあげて、そっとキスをくれた。お辞儀をするように前屈みになった真紀が唇に、触れて、離れて、ふわりと溢れた吐息を食べるように、続けて今度は深く口付けられる。 「ん、ン……ン」  舌先で探り合って、そのまま絡まり合って、バスルームにキスの濡れた音が響く。耳にもキスされてるみたいに。ぴちゃクチュって甘いキスの音。  音、やばい。 「このまま、ベッド、行きましょう」 「え……ぁ、ちょっ、うわぁっ!」  キスにとろけてふわりとした俺は一瞬反応が遅れた。  抗う暇もなく抱き抱えられて、その腕の中で思いがけずに狼狽えて。 「ちょっ」 「大丈夫、落としたりなんて絶対にしません」 「そういう問題じゃ」 「駅弁、いつもしてるから安心してください」 「い、いつもしてないだろうがっ」  男一人、しかも、美麗なネコでもなんでもない、さっきお前だってそう言ってた「身体が資本」の仕事をしてるような野郎を軽々と抱っこで持ち上げるなよ。  重くて、フツーによろけるだろ。 「誉」 「っ」  抱えながら、少しもよろけることなく寝室へ向かう途中、低く掠れた声で名前を呼ばれただけで、身体の内側が火照る。 「バカ、重いのに」 「重くなんてないですよ」  ベッドまで本当に運ばれて、ドキドキしてる。  野郎で、華奢でもなんでもないくせに、お姫様みたいに扱われて他所から見たら笑われそうなのに嬉しくて、胸が躍るんだ。お前くらいだよ。俺なんかをそんなに大事に扱ったりして。 「浴衣の貴方がずっと欲しかった」 「っ、何、言って」  こっちのセリフだっつうの。 「キスしたい」 「っ……ン」  ずっと、今日一日中、お前のこと。 「ン、真紀」  ひん剥きたくてたまらなかったんだ。

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