119 / 121

夏だ、海だ、青……編 7 誉さん、最高です。

 舟盛りすごかった。  スーパーで売ってる刺身と同じ種類の魚? って訊きたくなるくらいに味が違ってて、二人で食べる度に驚いてた。  あーん、なんてキャラじゃないことしてみたりして、照れくさかったけど、旅行中だから、まぁ……な。  そう。  今は旅行中だからさ。  本当に、マジで、仕事が激務だったし。  この旅行に来る時だって、人助けもしたし。プロなんで、素人がやるよりもずっと早くタイヤ交換できたけど、それでもなんだかんだ話してたりして、一時間は足止めだった。  かなり、めちゃくちゃ、楽しみしにしてた旅行だから。  だから、さ。 「も、満足した?」  はしゃいだって、きっと許されるかなぁって。 「……ぇ、誉さん?」 「っ」 「な、に……」 「もう、その、あれだ、満足した?」 「……」  真紀が眉間に皺を寄せて、怪訝な顔してる。まだどちらがどちらを使うか決めていない二組の布団の脇で。昼間は部屋の中央に主役ですって顔で居座っていたテーブルと一緒にちょこんと部屋の隅に座っている。  真紀らしい、真四角みたいな正座で。 「だから、こっ……ち」  俺はその布団の片方を勝手に陣取って、そこで後ろに手を付きながら腰を下ろした。浴衣の裾がひらりとめくれないようにだけ気をつけながら。 「……ほっ、まっ」 「っ」  動揺、した?  それはどっちの動揺? 「あっのっ」  買っといたりした……り、した。  その。  まぁ、あの。  似合わないってわかりながら。  そう、似合ってないのなんてわかってる。 「ま、満足したんならいい、よっ、なんでもないっ」 「! してません! 全く満足してませっっっっん!」  そんなに強く満足していないことを言われるとそれはそれで、さっき海のところでしたのはあんまり気持ち良くなかったのかと不安になるんだけど。 「まだしたい! です!」 「っ」  そんな、まるで小学生みたいに元気に言われると、なんか。 「俺っ、みたいなのがしても、普通は萎えるけど、でも」 「俺! 普通じゃないので! 萎えませんっ!」  なにそれ、って苦笑いをこぼした。 「状況わかってませんが、萎えませんっ!」  わかってないのに?  つか、わかってないで、そんなに前のめり?  わかったらさ、萎えるかもしれないのに? 「あのっっ」 「っ」  きゅっと喉奥で息を飲んでから、少しだけ足を閉じようと力んでいたのを緩める。そしたら足の間から見えそうだけれど。  今、履いてる。  この、エロい、下着。  買ったんだ。ネットで。さすがに店舗で買う勇気ないからネットで。でも真紀に知られないようにはしたくて。けど、最近、俺の方が帰り遅かっただろ? 普段はそんなことないんだ。どっちかっていったら営業の方が残業は多いかもしれない。昼間は接客があるし、外に出向くことも多い。溜まっていくデスクワークは帰ってきてから、夕方に片付ける。俺たち整備士は一応、十八時まで整備受付ってことになってるから、繁忙期じゃないなら大体上がりは十九時くらい。片付けがあるから。だから、帰宅は俺のほうが少し早いことが多い。  でも、ここのところ整備の仕事が多くて、ほぼ毎日残業で、ほぼ毎日真紀の方が帰宅早かったから。  ―― あ……今日届くのか。じゃあ……。  コンビニで受け取ったんだ。 「……」 「あ、んま、そんなに見られる、とさ」 「見ますっ!」 「ぁ……そ」  そっと、足をもう少し開いた。  そこまでレースがすごいのとかは、さすがに。だから、少しだけ前がレースになってるのにした。横がリボンのもあったけど、なんか、それも気恥ずかしくて。もっと腰が華奢ならリボンも似合うんだけど。 「……こっ」  バックは、少し楽しいかも、な。紐、だから。 「あ、あんまり、そんなかもしんないけどっ」 「……」 「あの、あれだっ、旅行だし、その、こういうのもたまには盛り上がるかなってだけで。その似合わないのなんてわかってる」 「いいえ」 「っ」  毎日ツナギ着て、タイヤ転がしてるような男がこんなの履いたって変だろうけど。でも、ちょっと変わってる、顔面、かっこいいのに、いつだってシチサンメガネの真紀なら、こういうのも悦ぶのかもしれないって思ったから、で。 「や、やっぱ」 「すごく」  はしゃぎすぎた。あぁ、もう、やっぱりやめておけばよかった。爆発しそうに恥ずかしい。 「似合ってます」  けど、お前が悦ぶなら。 「すごく、似合ってます」 「っ」 「見せて、いただけますか?」 「っ」  なんでもしたくなるんだ。 「誉さん」  すごく恥ずかしいことだって。いつもの俺ならしないようなことだって。なんだって。 「……」  したくなる。 「ど、ぅ?」  布団の上で膝立ちになって、浴衣の裾を捲り上げた。震えるくらいの羞恥心で頭の芯がクラクラする。だから自分で持ち上げた浴衣の裾をぎゅっと握り締めた。  前は小さな布にレースが施されて。そこからリボンが後ろまで伝ってる。二本ずつ。一本はへその下あたりでクロスするようになって、後ろで全部が繋がって。 「う、後ろ、が……」  編み込まれて、Tバックに。 「っ」  色間違えたかも。黒もなんか、どうなんだろうって思ってさ。青だと色気が、そもそもないけど、もっとないかなって思って。ピンクは流石に選ばない。っていうか選べない。それで消去法で赤紫のにした。変だったかもしれない。やっぱり無難な黒にした方が良かったかもしれない。 「すごいです」  それか青――。 「すごく似合ってる」 「っ」  なんでもしたくなるんだ。 「誉さん、最高です」  お前が悦ぶんなら、なんでも。 「なら、よかった」  したくなるんだ。

ともだちにシェアしよう!