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六.

洋平は基本的に来る者拒まず去る者追わず、である。  誰か一人をこんな風に気にかけるのが特別でないはずはない。 「言っちゃ悪いが赤坂先生は、見た目も地味だし、特に面白いとか良い先生だとかの話も聞かないぞ?」  浅尾が大河内の言葉に大きく頷き、あけすけに洋平が興味を持つ理由が分からない、と首を傾げて見せた。他の二人も同意見のようで、洋平の言葉を待っている。  しかし洋平は、最近肌身離さず持ち歩いている写真を見せるつもりもなければ、相手が隠しているだけで、けっこうな美形なのだと説明する気にもなれなかった。  そんな心境の原因が何なのかと聞かれれば、洋平は今は頭を捻るしかない。今まではどんな相手でも、こんな風に周囲に訊かれて隠したことはなかったのだから。  男だから、年上だからという理由は洋平には今さらだった。ならば、何なのだろう。そう自問したが、洋平はすぐに考えるのをやめた。深く考えても仕方ない。嫌だと思えば嫌なのだ。それがどんな感情からであっても。それでもどうしてもそれに理由をつけるなら、相手が教師だからというしかなかった。  そう結論づけた洋平は、にやりと三人に笑ってみせる。 「あの先生の尻が気に入ったんだよ。稀に見る美尻なんだぜ?」  露骨な理由を口にすれば、三人が三人とも呆れた表情をした後に溜息をついた。 「まあ、なんだな。先生の迷惑にならない程度にな」 「甘い! 大河内! そもそも教師を相手にしようってところから間違ってるんだ。止めるのが正解だろう」  大河内が普段通りの鷹揚さで助言するようなことを言うと、隣で浅尾が目を吊り上げる。 「恋愛は自由だし、さすがに洋平も嫌がる相手に強引なことはしないんじゃない? なあ?」 「当たり前。そんなに飢えちゃいない」  藤田に苦笑気味に同意を求められた洋平は、わざとらしく肩を竦めて見せた。 「どうだかな」  それでも疑心の目で睨んでくる浅尾に、洋平は苦笑いをするしかない。  今までの洋平を知っているからなのか、もともとお堅い性格がそうさせるのか、浅尾はことさら洋平には厳しいところがある。もちろん自業自得だという自覚はあるので、洋平はそれを特にどうと思ったことはなかった。それに、浅尾が誰に対しても公平な態度を貫こうとする姿勢を洋平は気に入っていた。 「やるときはちゃんと同意を得てからやる。ーーこれでいいだろ?」  浅尾に手のひらを向けて片手を掲げ、宣言してみせる。  すると真面目な副会長の口から、大きな溜息が漏れた。 「本気かどうか知らないが、俺の前で言ったからにはちゃんと守れよ?」 「分かってるって」  洋平が素直に頷けば、何故か再び、浅尾の口から溜息が漏れる。心配性なのか苦労性なのか、そんな浅尾の肩を、大河内が慰めるようにぽん、と叩いた。

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