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十二.

終わりを告げる鐘の音と共に、教室に幾つもの溜め息が漏れる。生徒たちにとって長いテスト期間がようやく終了したのだ。テスト用紙を回収した教師が出て行くと、途端に明るくざわつき始める中、まだホームルームもあるというのに洋平が席を立つ。その姿をちらりと幾つかの視線が追ったが、声を掛ける者は一人としていなかった。  廊下を歩く洋平を、別の教室から出たばかりの生徒が呼び止める。 「新井?」  聞き慣れた声に反応した洋平が、片手をズボンのポケットに入れたまま振り返り、にやりと笑った。 「よお、副会長。出来は上々?」 「当然」  揶揄する洋平に、浅尾は澄ました顔で答える。  浅尾を始め、会長の大河内はもちろん、生徒会役員の面々は特進に追随する成績を必ず残している。もちろん、洋平自身もだ。それは生徒代表に選ばれた理由の一つでもある。 「そうじゃなくて、どこに行くんだ? まさか美術室とか言わないよな?」  眉間にしわを寄せじとりと洋平を睨む浅尾に、睨まれた当人がわざとらしく眉を上げて見せた。 「すごいな。当たりだ。浅尾は俺のことをよく分かってる」  うんうんと感心したように頷く洋平に、ますます皺の数を増やす浅尾が深い溜め息をつく。 「テスト終わったばかりだぞ? 採点されてるかもしれないし、中には入れないだろう」 「それでも顔くらいは見せれるさ」  あくまで自分を押し通す洋平に、浅尾は苦笑した。 「見るんじゃなくて、見せれると言えるのがおまえだよなあ」  浅尾がこの学校で知らない人間はいないだろう彫像のような友人を、呆れた眼差しで見上げる。 「ずいぶん足繁く通ってるが、ちょっとは脈があるのか?」  もちろん、教師が本気で生徒を相手にするわけがない。というより、相手にしてはいけないのだが、この顔の良い友人に関しては常識を飛び越えていきそうで怖いのだ。学園の外で年上の相手と一緒にいるところを見かけたのも、一度や二度ではなかった。  そんな浅尾の心配をよそに、洋平は何のてらいもなく片手をひらひらさせながら階段へと歩き出す。 「答えは?」  浅尾が立ち去る背中に問うと、洋平が肩越しに振り返り、意味深に笑ってみせた。 「……本気なのか?」  気を持たせる笑みに、浅尾は別の意味を見つけ、ぼそりと呟く。  しかし洋平はそれにも答えることなく、その場所から離れたのだった。

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