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十四.

涼はそれを聞いて安堵すべき自分が、微かな苛立ちを感じてしまったことに眉根を寄せる。 「俺がここに来るの許可してくれるなら」  だがすぐにそう条件をつきつけた洋平に、今度は涼が戸惑う番だった。 「……できるわけ、ないだろう」  喜んだわけでは決してない。それでも心の中でホッとしている自分に気づき、涼の胸の内にどうしようもないどろりとした感情が湧き上がる。 「なんで?」  悪気のない無邪気さを前面に押し出した洋平の率直な問いに、涼はムッとした。  洋平の本心がどこにあるのか、まったく分からない。  自分にそういう意味で興味があることは確かだろうが、こんな風にまどろっこしくちょくちょく顔を見せにくるだけなのだ。近づきもしないから、触ろうとしてくることもない。高校生では食事に誘うことも出来ないのはわかるが、学校以外で会いたいという意思表示もなかった。  これではただ、洋平の好奇心に付き合ってやってるだけでしかない。  涼が会うだけで満足するという恋愛経験をしたのは、小学六年まで。もちろん自分からではなく、主に迫られる方で、だ。  そして何より、洋平は涼が知る中でもかなりの容姿の持ち主。事実かなりモテると聞いたばかりだ。興味本位の面白半分で暇潰しをされてるとしか思えない態度に、これ以上付き合う理由など涼にはない。  そう自分に言い聞かせ、 「君の遊びにはこれ以上、付き合えないよ」  そうハッキリと告げる。 「……ふうん?」  すると、一拍の間を置いて洋平の少し低くなった相づちが返ってくる。  それに涼は、やはり否定はしないか、と自嘲気味な気持ちになった。それならば引き返せなくなる前に終わりにすればいいだけの話だと、涼は洋平から顔を逸らす。  これが最後。元々同じ学校にいるというだけで、接点もない生徒だ。特別なイベントでもなければ顔を合わせることもない。だいたい自分が振り回されてるのも、容姿だけなら極上の部類の洋平と、ちょこちょこ顔を付き合わせるからであって、それ以上でもそれ以下でもないはずだ。  涼は納得のいく理由を自身であげつらい、もう後ろを振り返らなかった。 「落とし物も返してくれなくていいからーー」  ドアを押さえたままの洋平に背を向け、涼は雨音を立てる窓のある部屋の奥へと歩く。  そしてその背後で、パタンと小さくドアの閉まる音がした。

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