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十六.

洋平が生徒会室へ入ると、何故かそこにいる全員が帰り支度をしている。 「は? 仕事あるんじゃないのか?」  洋平は訝しげに早々にバッグを背負った藤田に視線をやった。 「今日は終わり! 付き合ってくれるんだろう?」 「藤田があまりにうるさいから、仕方ない」  浅尾がデスクの上の紙を引き出しに入れながら、溜め息をつく。その横では大河内もバッグへペンケースをしまっていた。  洋平は入口のドアにもたれかかり腕を組むと、「ふーん」と呟く。その視線は三人の準備が終わるのを眺めているようで、見ていなかった。そしてそんな洋平の気の抜けたような様子に、他の三人は気づいていたのだ。  珍しい、としか言いようがない。  先に生徒会室へ戻った藤田が二人に洋平がおかしいと伝えた。そこで気晴らしに行く提案を藤田がして、しぶしぶのったところだったのだ。半信半疑だったのは浅尾だが、なるほど、確かにいつもよりぼうっとしているなと洋平をちらりと見て納得する。  おちゃらけ担当のような洋平ではあるが、その実、それが面倒くさがりからきた計算だと浅尾は思っていた。元々の性格がというのもあるだろうが、洋平にはそうやって周りを煙に巻く理由も確かにあるのだ。そしてそれを知っているのはおそらく一部の教師と生徒会のみ。隠し事というほどのことでもないが、率先して言いふらすような事でもないというだけ。  ましてや本人がこの性格である。 「新井、ほら、行くぞ」  ドアに寄りかかったまま動こうとしない洋平に、藤田が呆れた声を出す。 「ああ、はいはい。息抜き、ね」  肩を竦めた洋平は、三人に背を向け下駄箱の並ぶ昇降玄関へ歩いていく。  その背中を見つめた三人の視線が、物言いたげに交わされた。

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