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十七.

藤田の後輩にボールを借り、生徒会の四人はレ複合施設のコートで2on2をやってひたすら動いた。それぞれがそこそこに動けるものだから、熱中しだすと緊迫感さえ醸しだし、周囲の客の目を引いてしまう。特に洋平は、高身長でモデル並みのスラリとした体型。そしてその整った容貌が真剣な眼差しでゴールを見る横顔は、その場にいた女性全員の熱い視線を集めていた。 「た、タイムアップ!」  荒い息と共に声を張り上げたのは浅尾。 「これ以上、やったら、明日に響くっ」  コートに寝転がる浅尾の横に大河内が腰を下ろし、藤田は持っていたボールに器用に座った。 「情けねーな、副会長」  洋平が笑いながら顎に伝った汗を、腕まくりしあらわになった腕で拭うと、どこからともなく黄色い声が聞こえてくる。それに気づいた大河内が苦笑しながら立ったままの洋平を見上げた。 「新井といると周りが浮き足立つ」 「学校じゃもうみんな慣れてるから、たまにだと新鮮な反応だよな」 「そもそも、うちは男子校だぞ」  藤田がそれに乗っかり面白がって茶化すが、浅尾が寝転んだまま冷静にツッコむ。どうやらバテてはいるが、話は聞いているらしい。 「別に今さらだろ?」  だが当人は小さく肩を竦めるだけで、周囲の反応など空気程度にしか受け止めていないようだった。  そんな洋平に藤田がにやりと笑う。 「ふーん。本命以外は眼中にない?」  そのタイミングで浅尾がガバッと起き上がった。 「そうだ。こんな事になったのもおまえの様子がおかしかったからだよ」  睨んでくる浅尾に、洋平は何のことだと首を傾げる。だが三人の視線が意味深に向けられていることを知り、洋平は何となく察した。 「……そんなにおかしかったか?」  決まり悪げに洋平が髪を掻き上げると、三人が同時に頷く。 「赤坂先生と何かあったんだろう? 新井が本気だったことは驚きだが」  悪気のない大河内のセリフに、洋平は押し黙った。  気を悪くしたわけではない。ただその言葉の意味を考えているのだ。 「ーー教師に憧れるってタイプでもないだろう? あの先生の何がそんなにいいんだ?」  心底理解できないというように頭をひねる浅尾に、大河内が苦笑する。 「良し悪しは本人にしか分からないものさ。新井に先生と生徒って関係がブレーキになるとも思えないしな」  こういう場所ではいつもは聞き役の多い大河内が、珍しく口を挟む。 「会長、新井のことフォローしてんの? 貶してんの?」  藤田がくっくっと笑いながらツッコめば、大河内は真顔で「事実を言ったまでだ」と肩を竦めた。 「俺は本気とか、そういうのよく分かんねぇ」  コントなようなやりとりをする仲間を前に、洋平は不機嫌そうに首の後ろを片手でさすりながら視線を逸らす。 「分からないのに通ってるのか? 他で遊びもせずに?」  浅尾が容赦なく訊くと、洋平はまたしても黙り込んだ。

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