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十九.
厚い雲がところどころ割れ、その上部に光が差し込む。
空がそんな雲で賑わしく、刻々と変化し様々な形をとるのに、洋平は一辺して難しい顔をしていることが多くなった。
美術室への日参がなくなり、その姿を捕らえることが増えたにも関わらず、洋平に気のある人間が誘いをかけても立て続けに断られる。それが噂にならないはずもなく、今では遠巻きに洋平を観察する視線がほとんどだった。
そんな変化を生徒会の面々が気付かないわけもなく、しかし特に言及することもない。浅尾は、ほいほいと誰とでも付き合う洋平に元々渋い顔をしていたし、あとの二人はあくまで様子見という雰囲気である。
「ただいま」
大河内が生徒会室へ入ってくると、浅尾がすぐにねぎらいの言葉をかけた。
「お疲れ、会長。どうだった?」
「うん。承認取れたよ。これでとりあえず落ち着いたかな?」
大河内が持っていたクリアファイルを浅尾へ手渡すと、両手を組んでぐっとを前に伸ばす。すると浅尾が腕時計に目を落とし、小さく頷いた。
「そうだな。それにもう7時近い。あとは来週で間に合うだろう」
そう言って預かった書類を手元のバインダーへ挟み、立ち上がる。それに倣って片付けを始めた藤田が、はたと隣のデスクを見つめた。
「新井、遅くない? どうする? 荷物置きっ放し」
「トイレじゃないのか?」
大河内が首を傾げると、
「教室に忘れ物したらしい。……何やってんだかな」
浅尾が小さく溜め息をついて、新井のデスクの上も片付け始める。
「藤田。荷物持って」
「あいよ」
結局、三人が生徒会室を出るまで戻ってこなかった洋平のために、浅尾だけが残った。待っているのも煩わしく、教室のある三階へと上がる。だが、教室へ辿り着く前に浅尾の足は止まった。
「ーー新井」
教室の手前で、窓から少し離れた場所に立っている洋平の後ろ姿を見つけたからだ。
声をかけても反応しない洋平を訝しみ、近付いてその横顔を見ると、その視線が窓の外の何かに向けられていることに気付く。いつもの調子のいい洋平ではなく、その表情はまるで造り物のようだった。
「新井、帰るぞ」
窓の外はまだ明るい。
雲間から漏れる傾いた陽の光りで、隣の校舎ははっきりと見えていた。
先にあるのは、B棟の同じ階にある窓。
美術室だった。
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