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二十.

「……もう、帰ってるだろう」 何を見ていたのかなど一目瞭然である。浅尾が肩を叩くと、ようやく洋平の顔に表情が浮かんだ。 「ーー浅尾か」 まるで亡霊でも見たような顔で自分を見る洋平に、浅尾が呆れて溜め息をつく。 「俺はお前のせいで幸せが山ほど逃げてるよ」 いきなりなんだと首を傾げる洋平に、浅尾は持っていた荷物を押しつけ、「帰るぞ」と踵を返した。そしてすぐに聞こえてきた後ろの足音に、ホッとする。 「で? あれだけ熱心に見てたが、気持ちは伝えたのか?」 「……は?」 さっき上がってきたばかりの階段を下りながら浅尾が聞くと、洋平が間抜けな声を出すから思わず浅尾の足も止まった。 「まさかーー自覚なしだなんて言うなよ?」 「だから、何の話をしてるんだ?」 とぼけてるのかと浅尾が訝しげに洋平の顔を見つめるが、どうやら本気で言っているらしいと気付き、ほとほと困ったように視線を宙に彷徨わせる。百戦錬磨とまではいかないまでも、そこそこに遊び慣れているはずの洋平が、まさか自分が拘っていることにも気づいていないとでもいうのか、と浅尾は呆れを通り越して感心すらしていた。 「お前、案外可愛いとこあるんだなあ」 浅尾にわけの分からない褒め方をされた本人は、揶揄われているとでも思ったのだろう。少々むっとした顔になる。 「まあ、いいや。悩めよ、少年」 そう言い残してさっさとまた階段を下りて行く浅尾に、洋平は首を傾げながら後に続いたのだった。

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