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二十二.

大きな歓声があちこちから聞こえてくる。 心配してた雨も小雨が散らついた後、厚い雲も風に流され陽の光がグランドに降り注いでいた。七月も半ば近くなり、その陽射しは痛いほどである。 「あ、見つけた。藤田、次のバスケ出れるだろう?」 上下とも夏用の体操服を着たクラスメイトが、洋平の隣を歩いていた藤田を呼び止めた。 「マジ? 進行早いなあ。洋平、行っていいか?」 「ああ。もうすぐ会長が戻ってくるだろ。行ってこいよ」 「サンキュー。んじゃ、これ預かっといてくれ」 手に持っていたバインダーを洋平に手渡し、藤田はクラスメイトと一緒に体育館の方へと走っていく。残された洋平は、何かを考えるようにバインダーを数回ぱたぱたと振り、小さく溜め息をついた。髪を軽くかきあげ歩き出すと、今度は見知った顔に声をかけられなかなか先へ進めない。ようやく運営のテントに辿り着いた時には、すでに洋平はかなり疲れていた。 テントの中には長机が六台と、パイプ椅子がそれぞれに三脚ずつ用意されている。そこは運営の責任者である生徒会と、各クラスから選出された運営委員が打ち合わせをする場所として設置されたのだが、全員揃ったのは朝一番の時だけで、あとは委員たちの休憩場所となっていた。生徒会で用意したクーラーボックスの中には、すでに数本の缶ジュースと溶けかけた氷しか入っていない。そこには苦手な種類の物しか残っておらず、洋平はぱたりとボックスの蓋を閉めた。そして手近にあったパイプ椅子にどかっと腰を下ろし持っていたバインダーを机に放り投げる。 「備品を乱暴に扱うなよ」 すると戻ってきたばかりの大河内が、洋平を苦笑しながら諫めた。 「会長、おつかれー」 苦言はスルーして洋平が体を起こし、机に頬杖をつきながらおどけると、大河内が仕方のない奴だなと呆れたように笑う。洋平は大河内のこういうところが好きだ。おおらかというのか、何事に対しても柔軟な姿勢を崩さない。他人と自分とが別の人間だということをよく分かっている。大河内は洋平にはなり得ず、洋平も大河内にはなり得ない。いい意味でも悪い意味でも、尊敬すべき存在だと洋平が認める数少ない人間だった。 そして、融通が効くのも大河内の良いところだと考えながら、洋平は我儘を口にする。 「会長、クーラーボックスの中身、あんま残ってないけど、俺が休憩がてら調達してこようか?」 「……それは、しばらく抜けたいって事だな」 聡い大河内は、洋平の言わんとしたことを的確に読み取ってくれる。 「試合は大丈夫なのか?」 そして心配する事は生徒会の仕事ではなく、洋平がクラスに迷惑をかけないという、その一点だけ。そこが大河内らしいところである。 「もちろん。しばらく俺の出番はない」 手元のバインダーの紙を何枚かめくり、大河内が少しだけ考えるそぶりを見せたが、結局はこくりと頷いた。 「いいぞ。――その代わり、放課後俺の仕事手伝って貰うからな」 抜け目のないのも生徒会長さながらである。洋平はそれに快く頷くと、すぐに立ち上がった。

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