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二十三.
クラスマッチのおかげで、校舎の中はどこもかしこも静まり返っている。
頼まれた物はB棟の食堂にあるのだが、洋平は自分の教室のあるA棟へと真っ直ぐに向かっていた。
途中何人かの生徒とすれ違ったが、特に声をかけられる事もなく無事に洋平は校舎へ辿り着くことができてほっと溜め息をつく。
生徒会に入れば退屈はしないものだろうと思っていた。
事実、最初は覚えることもかなりあったし、その隙間をぬって遊び歩くのも楽しんでいたのだ。だがそれも、結局代わり映えしない日常になり、洋平はその日その日を空虚な気持ちでやり過ごしていた。
そこでたまたま拾いあげた一枚の写真。
少しの間だけ楽しめればいいと、そう思った。
写真の中で艶やかな色をまとった青年は、物憂げな表情で横たわっていた。肌を晒した青年がただ一つ身に付けていたのは、紅い縄だけーー。
教師という堅い職についているとは思えないほどに煽情的で、恍惚とも見える様子は
、まるで情事の後を思わせる刺激的な写真だった。だが、洋平がそれほど興味を持ったのは、その青年と落とし主が同じ顔をしていたから。その程度の写真であれば、見ようと思えばいくらでも見ることができる。
長く伸ばした黒髪の下にある、その素顔を見たいと思わせた赤坂涼という人物に単純に興味を持った。それだけのはずだった。
毎日、時間があれば顔を見に行った。頑なに教師の態度を崩さない涼の反応が面白かった。そしてその表情に、わずかに覗くようになった自分へ興味が、ことさら嬉しかったのだ。
顔を合わせ、口数少ない涼の声が聞ければ、ますますその時間が欲しくなった。だが洋平は、自分にそういう衝動があることをカッコ悪いと考え、そんなそぶりを見せることを良しとしなかった。普段から積極的に何かをやることなどなく、慣れない自分を受け入れ難かったのかもしれない。
そして結局、その関係をあちらから切られ、洋平にできることといったら、大人しく引き下がることだけだったのだ。
それでもかわまない。ただおもちゃを取り上げられただけだ。と、そう自分に言い聞かせ、また元のように適当に遊べばいいだけ。
それなのに、その日からの洋平はずっとぼんやりしている。勉強もそれなり、生徒会のこともやるべきことはやっている。だがどうしても過去の自分のように軽い気持ちで遊び歩く気にもならず、たまに誘われ街にくりだしても、まったく楽しめずに途中で帰る。しまいには誰かといることすら鬱陶しくなり、自分をよく知る生徒会の連中とばかりつるんでいる始末である。
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