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二十四.
洋平は靴を履き替えると、生徒会室の方をちらりと見た。鍵は大河内と浅尾が持っているはず。預かってくるべきだったなと後悔しながら、洋平は階段に足をかけた。
上階から足音が聞こえるが、洋平は気にしなかった。おおかた洋平と同じようにサボタージュしていた生徒がいたのだろうと思ったのだ。
「……」
だが、その足音は予想に反して一階と二階の踊り場辺りで止まる。
不思議に思って視線を上げると、そこには見慣れた白衣を着た涼がいた。
「……ちわ」
突然のことに洋平はどう反応するべきかわからず、とりあえずいつも教師たちにするように挨拶をする。だが、内心ではなぜ涼がそんな顔をしているのか困惑していた。
「……こんにちは」
久しぶりに聞く涼の声は、涼しげで、ひどく洋平の耳に残る。
涼が洋平を遠ざけたのは、洋平を鬱陶しく思ってのことだと思っていた。
だが、今洋平の目の前にいる涼からは、そんな雰囲気は微塵も感じられず、ならどうして、と洋平は苛立ちにも似た怒りを覚えた。
それが表情に出てしまったのか、今度は涼の方が困ったように薄く笑う。
そのまま行ってしまうのだろうと思ったのに、涼は何故かそこから動かなかった。
「……どうしたんだ? 忘れ物か?」
長い時間のように感じた一瞬の沈黙が、涼によって破られる。
真夏の暑さで熱されたアスファルトに、打ち水した後に感じる涼しさのような、声。
「休憩ですよ」
その声を聞いた途端、怒りが空気の抜けた風船のように萎み、洋平に残ったのは僅かな羞恥と、期待にも似た渇望――。
「サボりか」
洋平の言葉に涼が思わずといったように破顔した。
初めて見る表情に、洋平はどきりとする。
ずるい、と思った。突き放しておいて、いきなり打ち解けたようにそんな顔を何故見せるんだ。
洋平はそんな涼を正視できずに、視線を逸らす。
顔が熱いのは、気のせいだと自分に言い聞かせて。
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