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二十八.

「おっまえ、ホント期待を裏切らないな」 桧枝に腕を取られて涼は繁華街を歩いていた。 一人で歩けると主張した後に、涼が足元に転がっていた空き缶に躓いたからだ。 「大丈夫って言ってるのに……」 桧枝はざっくばらんに見えて実は相当なリアリストで性格は最悪だ。だが何が面白いのか、たまにうざいくらいに面倒見が良くなる事がある。今の桧枝がそれだった。気分屋の手はいつ離れるともわからず、確かに少々頭の中が酔いでぼうっとしている自覚のある涼は、それを振り払うのも面倒で、好きにさせていた。 「しかし、今日は若いのが多いなあ」 うんざりしたように桧枝が溜め息をつくので、涼も周囲をぐるりと見回す。 なるほど。確かに年齢層が高めのようだと涼は頷いた。普段から高校生と接している涼はともかく、桧枝には馴染みがないのだろう。 「んー? お、イケメン発見。……てか、あいつかぁ。相変わらず派手な奴」 笑いを含んだ桧枝の声に、知り合いかと隣の男の視線の先を追った。そしてそこに見つけた顔に、涼が固まる。 「っ、おい。いきなり止まるなよ」 渋い声で抗議する桧枝の声は、涼の耳をすり抜けていた。 「なんだ? おまえも知ってるのか、……って、あいつか!? おまえの相手?」 察しの良すぎる桧枝の驚いた様子に、涼はどんな顔をすればいいのかわからずに黙り込む。容姿がいい事と生徒という事以外は伝えていないのだが、まさか桧枝が知っているとは思ってもみなかった。 視線の先で仲間に囲まれ道端に立っていたのは洋平だった。学校でしか見たことのない洋平はその容姿もあいまってか、私服だと随分と大人びて見える。 「新井洋平から求愛されてんのか。――なんとまあ、極上コンビだな。いっそ二人一緒なら撮らせてくれっかな?」 「……断られたのか」 桧枝はカメラマンである。まだまだその業界では若手でひよっ子扱いだそうだが、そのセンスと腕は注目されているようで、件の写真を撮ったのも学生時代の桧枝だ。 「そうそう。素っ気なくね。もったいねーよなあ。あれだけの見た目持ってんのに」 「素っ気なく? ならなんで名前知ってる」 一応教師としては、未成年の生徒に得体の知れない人間が近づくのは見過ごせないと、涼がその胡散臭さにおいては随一と常々思っている男を睨みつける。 「そりゃリサーチに決まってる。いい素材はそうそうないからな。その辺はきっちし」 「うちの生徒にほいほいその顔で近づくんじゃない」 「ひでえな、おい。ていうか、いっぱしに教師風吹かせることもできるんだな、赤坂も」 おかしそうに笑う髭面は置いておいて、涼は再び洋平がいる方を見た。

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