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二十九.
すると洋平がこちらをじっと見ていることに気づき、涼はどきりとする。
一際目立つ容姿をしているからか、他の仲間が楽しそうな中にあって表情の抜け落ちた洋平は、それだけで一種の迫力のようなものがあった。
「お、新井くん、こっち見てるなあ。あーあー、嫉妬丸出しじゃねぇか。可愛いとこあるんだなあ」
「嫉妬……?」
桧枝の言葉に、涼は首を傾げる。何に妬くというのか。
「赤坂は変なとこ鈍感だよな……。よし、ちと加勢してやるか。おまえ、ここで待ってろ」
「あ、おいっ」
わけのわからない事を言った桧枝が、洋平の方へスキップでもしそうな上機嫌さで向かってしまい、涼は焦って呼び止めた。だがそれでマイペースな男が止まるわけもなく、涼は一人残され、こちらを見ている洋平と桧枝の背中を複雑な気持ちで見つめる。
何を言ってるのか声は涼のところまでは届かない。だが、まっすぐ洋平に近づいた桧枝が、こちらを指で指し示し話しかけているからには、涼のことを話しているのだろう。
「あいつ、余計なこと吹き込まないといいけど……」
苦い思いであり得ないツーショットを見ていた涼は、すでにほろ酔い気分などどこかへ飛んでしまっていた。
しばらく話していた桧枝がこちらへ向かって歩き出したので、ほっと息をついたのも束の間、そのあとを追うように洋平までが近づいてくるから、涼はその場から逃げ出したくなる。
まだ答えを決めてない。それに桧枝には、すでに洋平を受け入れる気持ちを持っているじゃないかと指摘され、自覚のない涼はまだ戸惑っていたのだ。
先に自分のところへ着いた桧枝を責めるように睨みつけるが、本人は胡散臭い笑みを浮かべ肩を竦めるだけで、その効果は用を足していない。
ほどなくして洋平が、涼の元へ辿り着いた。
「話って、何?」
いつもより硬く聞こえる洋平の声に、涼はさっきよりも距離をおいて立つ腐れ縁の男を睨む。
話など、まだない。
明らかに面白がっているだけの桧枝と、まるで怒ったように涼をじっと見つめる洋平の前で、涼は躊躇して口を開けずにいた。
そんな涼の態度をどう受け取ったのか、洋平がその口元を歪めて笑みを浮かべる。
「何? もしかしてこれが答えとか言うの」
シンプルな白と黒のTシャツを重ね、革紐に通したシルバーの大きめのリングを胸元で揺らす洋平は、やはり高校生には見えなかった。黒のジーンズのポケットに親指だけを引っかけたその腕のラインも、Tシャツの襟から見える筋張った首のラインも、男の色気を十分に見せていて、涼の鼓動は徐々に速さを増す。
「これって? 桧枝……この男が何を言ったか知らないが、丸ごと忘れていい」
それを誤魔化すように涼が視線を逸らし忠告すると、何故か洋平は小さく笑った。
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