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三十一.

「――何にせよ、高校生なのは間違いないだろう。なら、こんな所にいるのはあまり好ましく……っ」 涼がすらすらと思ってもいないとこと口にすると、横から肩を小突かれてしまう。 「あーかーさーかー。つまんねぇこと言うなよ。往生際わりいな」 桧枝が呆れた顔で涼を見ると、そのさらに横にいる洋平がムッとしたのが涼にも分かった。 さっきからなんなんだ、と涼は洋平の反応に疑問を持つが、さっきの桧枝の言葉が頭を掠める。『嫉妬』とは、まさかこの胡散臭い顎髭の男にということなのだろうか。とんでもない勘違いに、涼は驚くよりも先に冗談じゃないと憮然とした。 「新井。言っておくが、この男とはただの腐れ縁だ。ただの友人以下の存在だ。間違ってもこの男と俺がどうこうする関係になることは、地球がひっくり返ってもない」 さっきまでの洋平の言葉の意味も反応もそれでかと涼は納得し、その杞憂を払拭してやる。そもそもにそんな想像をされるだけでも涼は我慢ならなかった。 「こいつはクズだ。ゴミだ。ちょっと器用なだけの、人間以下の……」 「はい、ストーーップ! おまえ、連絡してきたの自分だって事忘れてないだろうな? わざわざこっちまで出てきてやった俺に言いたい放題言いやがって」 横で文句を垂れる男にふんと鼻で笑った涼は、洋平の様子が変わったことにそこで初めて気付く。何やらやにさがった締まりのない表情。暗くて分かりづらいが、顔も赤くなっているようだった。 「新井……?」 どうした、と涼が声をかけると、洋平はハッとしたようにその顔を隠すように片手で口元を覆う。 「ああ。――ほんと、勘弁……」 涼がそんな洋平をまじまじと見つめると、ますます洋平の様子がおかしくなり、視線をあらぬ方向へ逸らした。 すると桧枝がわざとらしい溜め息をつき、 「……まあ、なんだ。あとは勝手にやってくれ。俺は帰る。あ、新井くん、これ上げる」 そう言うとさっさと背中を向けて歩き出す。だが思い出したように立ち止まって顔だけを涼たちの方へ向けると、にやりと笑った。 「この貸しはそのうち返してもらうからな。あ、もちろん新井くんが返してくれるのも大歓迎」 「さっさと帰れ」 洋平に愛想を振りまく顎髭の男に、涼が牽制するように手で追い払うと、桧枝は肩を竦めて歩き出す。そして片手をひらひらとさせ、ようやく街の人混みの中へと消えていったのだった。

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