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三十六.

次第に熱の篭る洋平の視線に、涼は戸惑い、思わずもたれていたソファから背を浮かせた。 答えた、ことになるのか? 今の自分の発言が? 涼はまだよく自分の気持ちがわからなかった。 ただひとつ気づいたのは、帰らなくていいと聞いてきた洋平が、たまらなく可愛くて仕方ないという気持ち。 居たいだけいればいい、と思ってしまった。もちろん、洋平の言う意味が、ただ涼の部屋に泊まるというだけのはずもないのだが。 まだ自分の中にはっきりした気持ちがないのに、洋平を受け入れていいものだろうかという逡巡が表情に出ていたのか、洋平が涼を見て小さく溜め息をついた。そして、涼を怯えさせないためかゆっくりとソファへ片膝をつく。 ぎしっとソファが軋みを上げ、その音に気を取られていた涼が、次に気づいた時には、目の前に洋平の顔があり驚く。 「な、に……」 思わず出した涼の声は、掠れて心許ないものだった。 それに、ふ、と眼差しを和らげた洋平が、さらにゆっくりと顔を近づける。 もう二人の距離は、お互いの息がかかる距離。 涼は平静を装いながらも、次第に鼓動が速くなるのを止められない。 綺麗に眦の上がった洋平の目が、すぐそこにある。揃った睫毛の奥には、透明感のあるブラウンの瞳――。 「先生の目……綺麗だ」 まるで涼の心をそのまま読んだかのような洋平のその囁きに、涼はかあっと頰が熱くなった。 自慢にもならないが、涼がこんなシチュエーションを経験したのは、もう随分と前である。その間に性欲を満たしてこなかったのかと言われれば嘘になるが、一夜限りの相手ばかりで、こんな甘い雰囲気にはなり得なかった。 「……ねえ、先生? 逃げないの」 洋平の呟きと吐息に、涼はふるりと唇を震わせる。 熱い空気が二人の間の狭い空間にこもり、お互いがその熱にまた浮かされていた。 黙ったままじっと自分を見つめてくる涼に、洋平はそろりと唇を押し当てる。熱を放っているのが、もはやどちらなのかあやふやになる中、涼はそれを目を開けたまま受け止めた。 すぐに離れた唇は、先程と変わらない位置に戻り、涼の反応を待っている。 少し開かれた唇。自分の唇に押し当てられたそれを見た後、涼は視線を上げた。 「……」 そこには熱を宿した男の眼差しが、まっすぐに涼を見ている。思わず自分に触れた感触をなぞるように涼は唇を舐めてしまい、すぐにその行為の恥ずかしさに気づいた。 くすりと洋平が笑みを零す。 「先生、誘うのがうまい、ねーー」 そう言いながら、洋平が再び動く。 今度は唇を開き、わずかにのぞく涼の舌を自分のそれで舐め上げた。

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