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四十四.
夏休みでも、課外授業や補習、部活で校内にはあちこちに生徒の姿がある。
そんな中、生徒会役員も時間を見つけては生徒会室で教師に頼まれた仕事や勉強をしていた。
だが洋平の在室率は恐ろしく低く、浅尾の不興を買っている。
「まあまあ、今は放っておいてやろうぜ。何せ初恋が実ったんだからさ」
藤田がシャープペンシルの芯を出しながらそんな風に言うと、浅尾が物の見事に嫌そうな表情を作ってみせた。
「初恋ってなんだ。新井とは無縁の単語だろう、そんなの」
そんなわけはないのだが、それだけ浅尾は腹を立てているということだ。何せ全校生徒、一人につき三枚のアンケートを、現在進行形で統計を取っている最中なのだから。
黙々と作業をする大河内とよそに、浅尾がそこにいるべき洋平を散々こけおろし、藤田がフォローするという、生産性のない何度目かの会話を交わしている。
「ちょっと長めに休憩取ってるってことで、大目にみてやんなよ」
藤田が苦笑すると、大河内が顔を上げて浅尾を見つめる。
「なんだ。会長も洋平の味方か?」
浅尾が憮然として腕を組んで椅子にもたれると、大河内はふっと笑った。
「そんなに言ってると、浅尾がサボりたい時に困らないかなと思って」
「俺はサボらない」
「恋人ができればわからないだろう? ちなみに俺は適当に言い訳して抜け出すかな。新井みたいに正直にはなれないだろうから、羨ましいよ」
そんな大河内を藤田と浅尾の二人がまじまじと凝視する。
大河内はおよそサボりとは無縁の実直な性格で、そんな男からそんな言葉が出てくるとは思いもしていなかった二人は驚いた。
「……それ言ったら、バレてるも同然だろう。––––そうか、会長も恋人が……」
ショックとは言わないまでも、いささか気落ちした声を出した浅尾に、大河内は二人がわかりやすいほどに頰を染める。
「あ、いや、だから、例えばって話で……」
いつも冷静沈着の大河内がどもって言い訳をする時点でバレバレなのだが、優しい二人は何も言わずにうんうんと頷いた。
「あーあ。今頃いちゃいちゃしてんだろうなあ、洋平」
藤田が溜め息をついて頬杖をつくから、浅尾が目敏くそれを注意する。
「その分俺たちがやらないといけないんだ。ぼうっとしてるといつまでも終わらない。ちゃっちゃとやる」
「はいはい、副会長様」
藤田が書類に目を落とす前に、ふと窓の外を見た。
外では蝉が五月蝿いほどに鳴いている。
少し前までの鬱陶しく続いていた雨が嘘のように晴れ、太陽の光に溢れていた。
今年も暑いなあ、と藤田はうんざりするように小さく息を吐き、また小言をもらう前に手元のアンケート用紙に目を落としたのだった。
完
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