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第10話
「僕は自分の存在が消えるような感覚から救われたんだ。それからだったよ。ジンが気になった」
「俺が?」
「ジンは僕とは違うけど、何かを抱えているように思えた」
「あ……」
それは以前、逢坂にも言われた言葉。
気づいていた。というよりも、逢坂との事が脳裏を過ぎる。
それで、余程、複雑な顔をしていたのかも知れない。陣内の表情を窺うと、柚木は微妙に眉を下げ、続けた。
「だからってすぐに今度は支えたいとか思った訳じゃなかったよ。他人に深入りをするという事……それはこわいし、戻れなくなる事もあるから」
最後に「悩んだよ」とどこか、愛しいものに向けて呼びかけるような柔らかい声でつけ足される。
柚木は人当たりが良かったけど、結局は陣内と同じように人と深く交わる事を恐れたのだろう。
そして、彼は逢坂と同じようにも悩んだのだろう。
「立ち入ってはいけない。もし、立ち入るのなら、せめて冷静でなければ、ジンに余計な傷をつけるかも知れない」
傷……それはなかなか人を好きになれない陣内にとって致命傷になるだろうと柚木は思ったのだ。
それだけは避けるべき事だ。
だけど……
「だけど、冷静でもなければ、のめりこんでいってしまう自分がいた。友達以上に、他の何の関係でもないものになろうとしてた」
陣内が誰かと一緒にいると思うだけで、落ち着かなくて、許せなかった。できる事であれば、傍について、繊細な友を脅かす全てを跳ね除けてしまいたい。
しかし、そんな綺麗でない気持ちで友が、陣内が離れていく事もまた柚木には耐えがたかった。
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