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第12話

 柚木の運転する車が陣内のアパートへ着いたのはもう日没近くになっての事だった。  いくら夏とは言え、やはり午後の7時半が近づいていくと、空も月や星が光り始めて、暗くなっていく。  陣内は冷蔵庫に何もないが、お茶のペットボトルと氷ぐらいはあるだろうと思い、柚木を部屋へ上げようとした。 「折角だけど、明日から東京へ行かないと。インターンじゃないけど、色々、事前勉強会とか説明会とかあるみたいでさ」  柚木は「また帰ってきたら、また誘ってよ」とつけ加えると、笑った。  それはまるで、先程の告白が嘘のような友達ぶりだった。 「柚木……」 「はは、ジン、なんて顔してるの?」  車を出そうとする柚木は口元を上げる。  それほど、陣内の顔は酷いのだろうか。運転席のサイドガラスが閉まっていれば、夜の闇と少しの街灯で見えるかも知れないが、分からなかった。 「誤解してるみたいだけど、僕はずっとジンを見てたんだよ? そんなに簡単には諦められないから」  しつこいと思われても、うっとうしいと思われても……と柚木は続ける。  簡単に人を好きになれない陣内のような人間もいれば、簡単に好きな人を諦められない柚木のような人間もいるのだろう。 「それに、たとえライバルがあの逢坂先生でもね」 「え?」  その陣内の声は柚木の車のエンジン音で消えてしまった。夜の闇が濃くなって、月や星の光が強くなっていく。  陣内は去っていく柚木の車を見つめると、自分の部屋へと戻っていった。

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