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第13話

翌日は日曜日だった。  昨日の晴天が嘘のように厚みのある雲が空を覆っていた。降水確率はそれほど高くはないものの、陣内は傘を持って、駅まで行く。  向かうのは逢坂のマンション。  もしかしたら、不在かも知れない。  だが、大学へ向かうよりは会える確立が高い筈だ。  本当は電話をしたら、確実なのだが…… 「お客様のおかけになった電話は……」  柚木と別れてから昨日の夜から5回ほどかけているが、機械的な不応答を告げるメッセージばかりで、逢坂の声を聞く事はできなかった。  逢坂の声。言葉で伝えるのは難しい。  穏やかであたたかさのある優しい声の時もあれば、どこか攻撃的で冷たく、とげのある声に聞こえる時もあった。  それは何も別人ぶっている訳でもなく、どちらも彼という人間を示しているのかも知れないけど 『先生の声が聞きたい』  それがどんな声だったとしても、彼の言葉を、彼の姿を求めてしまう。  逸る気持ちを抑え、陣内は逢坂のマンションがある近くの駅で降りた。改札はこれから出かける家族連れやカップルなど沢山の人とすれ違う。  陣内はこの駅へ2回来た事があるが、その2回ともが逢坂の元から自分の家へ帰る時で、改札からの店の並びも反対だった。 「笑えるな」  陣内から出たのは低く、小さな声だった。自分の家に帰る時はそわそわとしていたが、今では安堵のようなものを感じる。  どうして、逢坂の元を離れてしまったのだろう。  心の、陣内でも分からない深層部ではこんなにも逢坂の傍にいる事を望んでいたのに。  陣内は数分、大通りを歩くと、逢坂のマンションの前で足を止めた。玄関のインターホンで逢坂の部屋の番号を押す。  何故だか、押したくないという気持ちもあったが、4桁の番号を押した。

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