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第14話

「はい」  その部屋の主の声。聞きなれない女性の声だった。 「えっ」  声として出たかどうかは分からなかったが、陣内の頭は真っ白になった。  と言っても、インターホンの向こう側にいるだろう女性に対して黙っている訳にはいかない。 「すみません、そちらは逢坂さんのお宅では?」 「いいえ、佐藤ですが」 「すみません、番号を間違えたようです」  と口にしてみたものの、マンションも部屋番号も間違ってはいない筈だ。  陣内は何とか、佐藤と名乗る女性との会話を形式的に終わらせると、管理人に連絡を取る。  勿論、最近では個人情報の漏洩などで簡単には教えてはくれないだろうから、陣内はダメ元で逢坂とは兄弟だと伝えてみた。  すると、管理人は若く、ノリの良い男で、陣内の知りたがっていた事はあっさりと告げられた。  それは信じがたい事実だった。 「兄ちゃんなら先々週で出て行ったよ」 「出て行った?」 「ああ、今は佐藤って人が住んでるよ」 「……」  陣内は管理人の言動に少し呆れながらも礼を言い、適当に話を合わせて、電話を切った。携帯電話をポケットにしまう頃には陣内の頭へと浮かぶのは逢坂の事しかない。  彼はどこへ行ったのだろう。  どこに行けば、彼と会えるのだろう。  陣内の足は気づいたら、飛び出すように駅へ向かって走り出していた。

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