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第16話

 それから、陣内はどうやって帰ってきたのだろう。  目の前には叔父さんの家を出て、1年の月日を過ごしたアパート。  とぼとぼと大学から駅まで歩いて、途中、どこかへ持っていた傘を落としてきてしまった。幸いな事に雨は降っていないが、いっそ、雨に濡れてしまった方が陣内には良かったのかも知れない。 「もうすこし……」  そんな言葉を口にし、陣内は力の入らない足でアパートの階段を登っていく。ゆっくりとした足取りに錆びた鉄の階段は静かに、激しく、また静かに軋む。普段は必要ないし、ペンキが剥げて見た目にも汚れているので手摺りは使わなかったが、掴んでいなければ、陣内は後ろに仰向けで倒れていってしまいそうだった。 「先生……」  太股のポケットから事故で廃車となってしまったバイクの鍵と一緒になった部屋の鍵を取り出す。  あとは、鍵穴にその鍵を指し込む。部屋を空けて、ドアを閉める。玄関に倒れ込むようにして、目も閉じる。  もう目が開かない事を願って……  次に見るのはどんな夢だろう。  逢坂の住んでいたマンションにも行ったし、通っている筈の大学へも行ってみた。電話もかけてみたのに、逢坂章久という人間は最初から陣内の目の前には存在していなかったように消えてしまった。  それなのに、陣内の隣には彼がいて、心配そうに見つめてくる。  陣内は都合の良い夢だと思った。

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