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第17話

「陣内君」 「せ、んせい……」  次に目が覚めた時、陣内はアパートの自分の部屋にいた。ベッドに横になっていて、服は逢坂の部屋にも持っていったいつも着ている下着に毛の生えたような寝巻き。外の階段の手摺りの錆で汚れているだろう右手も綺麗だった。  それに、すぐ傍には陣内が会いたがってやまなかった逢坂がいた。 「先生、先生っ!」  陣内は脳で現状が消化できなくて、逢坂を呼ぶ。  逢坂は逢坂で、陣内を落ち着かせて、宥めようとした。 「そんな事言って、俺を置いて出ていく気だろ!」 「そんな事はない」 「嘘っ、行かないで……いか、ないで……」 声を荒げて、逢坂に食って掛かっていたかと思えば、陣内の声はしゅんとし、弱々しいものになった。  陣内という青年はこんなにも聞き分けがない人間だっただろうか。  飄々として、誰とも交わろうとしない人間のように見えた。ただ、それは「見えた」だけで違っていたのかも知れない。  だから、逢坂も初めて言った。 「陣内君……俺を信じて」  以前、「俺のような人間の言う事は信じられないか」と自嘲気味に告げていた男はそこにはいなかった。  それから、陣内は返事の代わりに1つ2つと涙を零すと、逢坂に促されるように再び眠りについた。  今度はちゃんと逢坂と話ができるように目を開く事を願って……

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