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第18話
次に陣内が目覚めた時にも逢坂はいた。
陣内は向かい合って、自分を見つめている逢坂の肩を抱きしめた。
「夢かと思っていました。俺の都合の良い……夢」
逢坂の表情は分からない。
ただ、彼が消えてしまう時まで陣内はこうしていたかった。
「じ……。どうして、君は……」
逢坂は陣内の名前を呼ぼうとして、呟くように問う。どうやら、逢坂は困惑しているようだった。
無理もない。
何故、逢坂がここへいるかは分からないが、介抱させて、「行かないで」とまで縋ってしまった。
逢坂に嫌われてしまったかも知れないと陣内は思う。
「俺、先生と離れたくなくて……」
逢坂の問いに陣内はぽつりと答えた。
本当はもっと言うべき事はあっただろうし、もっと逢坂にも分かるように伝える事もできただろう。
そして、それが分からない逢坂ではない筈だった。
「離れたくない。それは一時の感情の昂りだよ。友人に対しても、家族に対しても、誰に対しても存在する……ね。別れてしまえば、いとも簡単に消え去ってしまう」
それはなんて、残酷な言葉だろう。
と同時に、それはなんて、寂しい現実の言葉だろう。
「でも、初めてだった。初めて、こんな気持ちになって……ならされて……酷い。酷い。先生だけ……」
支離滅裂な言葉。
陣内は逢坂を責めながら、鼻が酸素を欲しているのを感じた。泣かなかった事が奇跡だったと思う。
何とか、言葉にしようとするのに、言葉が出てこない。会話が上手く続いていかない。
「なんで、なんで……こんなに苦しいのに届かないんだろ」
陣内はその「届かない」という言葉に全てがある気がしていた。
こんな風に人を引き止めた事がない。こんなにも人が去っていく事に耐えられないと思った事がない。
好きだと言えば良いのか。
好きだと言えば、愛していると言えば、逢坂の傍のいられるのか。
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