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第21話

「前に先生は傍にいてくれる人の方が良いって言いました」  前に、それは逢坂との2度目の食事の席の事だった。  逢坂はかつて陣内ではない誰かを愛していた。ただ、彼はその誰かの元を離れた。  今、思えば、逢坂が「こんなヤツ」と自分の事を悪口めいて評していたのはその事が原因ではないだろうか。彼なりにその事を悔いているからではないだろうか。 「それは俺じゃなくて、相手がって事で……」 「同じです。俺も先生がいて欲しい時に近くにいないなんて嫌です。そ、それに……」 「それに?」  物事に頓着な性質である陣内が逢坂の言葉を切ってまで、はっきりと言ってきたかと思ったら、言い淀んでしまう。  多分、陣内自身に関する事だろう。  逢坂が再度、強く促すと、陣内は口を割った。 「先生とつながっていたいです。距離だけじゃなくて……」  思えば、柚木とも、以前につき合っていた彼女ともこれを逃すと、つながりがなくなってしまうのではないかと思った。  しかし、陣内がどんな事をしても、つなぎとめていたいと思ったのは逢坂だけだった。 「ふふ、そうだね。もうやめようか」  逢坂は陣内をからかいながら、彼の書いたドイツ語の文章を見るのをやめて、ローテーブルに放り出す。  パサっとテーブルのプラスチックの面にルーズリーフが落ちる音が聞こえたかと思うと、逢坂は陣内を抱き寄せて、舌で陣内の耳朶の輪郭を撫でる。

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