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3 お弁当とライブの約束
「母さんおはよう」
朝起きて階段を降りリビングへ行くと、トーストの焼ける香ばしい匂いが鼻を擽った。
「おはよう。時間は大丈夫? 朝ごはん出来てるわよ。早く支度しなさい」
少し寝ぼけた頭で母さんの言葉をぼんやりと聞きながら、のそのそと支度をして僕はパンを頬張る。
毎日変わらないいつもの日常。ぬるくなった牛乳でパンを喉に流し込み、賑やかに今日の天気と星座占いを伝えるテレビ画面に目を向けた。
「はい、お弁当」
母さんが僕にお弁当を手渡してくれる。多分他の同級生のと比べたら少食で小さめのお弁当箱。「もっと食べて太りなさい」なんて余計なお世話を色んな人によく言われる。今まではあまり気にしたことがなかったけれど、高校に入ったら僕なんかより体格のいい人がたくさんいて、色が白くてひょろひょろしている僕はちょっぴり情けない。でも運動をしてるわけでもないからそんなに食欲は湧かないし、体を鍛えようにも運動も苦手だからどうにもならない。しょうがない、と、そういうところは諦めていた。
「ありがとう。いってきます」
弁当を受け取った僕は学校へ向かう。そういえば今日の占いは何位だったっけ。良くもなく悪くもなく、ただ「素敵な出会いがあるでしょう」なんて言葉が頭に残っていた。出会いもなにも、僕の周りはずっと今まで変わっていない。素敵なことなんてありっこないのだ。
「よっ!」
しばらく歩いていると後ろから康介に声を掛けられた。康介はすぐ近所に住んでいるから、登校時は一緒になることが多く、ほとんど毎日一緒に登校していた。小学校からそれは変わらない。
「おはよう」
ピョコンと小さな寝癖をつけた康介が笑顔で手を挙げる。寝癖を指摘すると、康介は照れ臭そうに慌てて頭を手で押さえた。
「そうだ、こないだの話! 来週末ライブあるんだって。楽しみだな!」
「え? ライブって?」
康介の言っている意味がわからなくて、僕は正直にそう聞いた。
「おいおい! 一緒に行くって言っただろ? 忘れてんなよ」
康介がわかりやすいくらいにプゥっと頬を膨らませる。ああ、そういえばそんな約束をしていたっけ。すっかり頭から消えていた僕は、康介に言われて改めて面倒くさいと思ってしまった──
学校の昼休み、天気がいいので僕は屋上に向かう事にした。昼や休み時間は一人でいることが多い。休み時間の教室は騒がしくてちょっと苦手。今日もいつもと同じく僕は弁当を片手に教室を出た。
「あれ? 竜ってお昼いつもどこ行ってんの? たまには一緒に食わね?」
廊下で僕に気がついた康介が声を掛ける。
「別にいいけど……お天気で気持ち良さそうだから屋上行こうと思って」
康介は僕と違い、多くの友人と色々な場所で休み時間を過ごしていた。だから声をかけてもらった僕は少し嬉しかった。
「んじゃ先に行ってて。 俺購買でパン買ってくる!」
康介は軽く手を振りパタパタと廊下を走って行ってしまった。康介と別れ僕はひと足早く屋上に行き、いつも過ごしている一番奥の場所へ腰掛けた。康介も後から追いつき僕の隣に座り、他愛ない話をしながら二人で昼休みを過ごした。
「あ? 待って! 今日バスケの練習試合じゃん! パンだけじゃ力出ねえじゃん! マジかよ失敗したぁ!」
突然康介は空を仰ぎ、両手を額に置き大きな声で喚きだす。康介は部活には入っていないけど、その運動神経を買われあちこちの部活から仮部員と称した助っ人としてよく声をかけられていた。今日もまた運動部の助っ人なのか、昼食が足りないと言って嘆いてる。その嘆きっぷりが少し可哀想に見えて、僕は手に持った弁当に目を落とした。
「康介、僕の弁当食べていいよ。はい、これあげる」
見かねた僕は渡瀬家イチオシの唐揚げを康介に差し出した。冷めても美味しい僕の一番好きなおかずならきっと康介も満足してくれるはず。
「え? あ、ありがと」
ちょっと戸惑った顔をして、康介は僕の唐揚げをパクッと食べた。
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