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11 大男の正体
先程の陽介さんの行動に戸惑っていると、急に周りが静かになった。いつの間にかさっきのギャイギャイと煩かったバンドが終わったらしい。
照明がスッと落ち、少しすると別のバンドがステージに出てきた。すぐに周りが明るくなり、ステージがはっきりと現れる。先程までのバンドとはうって変わり、ステージに立っているメンバーは僕らと同年代に見え若く感じた。
なんだかかっこいいな、と一人一人に目をやると、大変なことに気がついてしまった。
周りのメンバーより飛び抜けて背が高くてカッコいいギターの人。間違いなく僕が学校でぶつかり突き飛ばされたあの大男だった。学校でも背が高くて目立っていたけど、こうやって照明もあたりギターを構えていると本当にカッコよく見える。思わず見惚れていると、一曲目が始まった。
ギターを弾きながら、歌ってる。凄くいい声だし、さっきのなにを言っているか全くわからなかったバンドとは全然違う。康介があれだけ鼻の穴を膨らませて興奮してるのがよくわかった。
気がついたら僕も康介のいる前の方へ向かっていた。
彼らの演奏は、あっという間に終わってしまった。僕は今までにこんなに興奮したのは初めてかもしれない。隣にいた康介と目が合う。二人で顔を見合わせ、顔を紅潮させ笑い合った。
「良かっただろ?」
「うん! すごくよかった!」
しばらくすると陽介さんが僕らの方に来てくれた。
「お前ら控室行ってみなよ。挨拶できるように話して来てやったぞ」
康介は陽介さんの言葉にポカンと口を開け驚いている。どうやら陽介さんはメンバーと知り合いだったらしい。
「俺はこれから用事あるから、もう行くね」
そう言って陽介さんは行ってしまった。
康介は大興奮で僕の手を引き、奥の控室へ向かう。本当に行ってもいいのかな、迷惑じゃねえのかな……と、康介は興奮しっぱなしで僕の手をブンブンと振った。
控え室の扉の前には女の子が数人集まっていた。扉が開くと中から汗だくの男の人が顔を出し、康介に向かって手招きをした。
「陽介の弟君だよな? どうぞ、入っておいで」
「わ! ありがとうございますっ!」
康介は張り裂けんばかりの笑顔でそう言うと、凄い勢いで頭を下げた。僕はちょっとびっくりしてボーッとしちゃった。
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