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12 カッコ良かった?
控室に入ると、汗だくで着替えをしているメンバーの面々。
奥で着替えてる長髪黒髪の人は、ドラムの靖史 さんだと紹介された。僕らが部屋に入ったことなんてまるで気にならない様子で、各々着替えたりお喋りをしている。
「打ち上げどうすっかー?」
「陽介の弟来るんだろ?」
携帯の画面を見ながら話しているのはたぶんベースを弾いていた人。ちょっと見覚えがあるな、と思って康介を見たら顔を真っ赤にして固まっていた。こんなに緊張してる康介は見たことがない。
「陽介の弟君、もう来てるよ」
手招きして室内に呼んでくれた赤髪の人圭 さんがメンバーに声をかけた。康介は途端にシャキッと背筋を伸ばして「康介です! よろしくお願いします!」と自己紹介をした。僕もなんとなく康介の隣で頭を下げる。みんなが兄貴と似てるだの似てないだのとワイワイと集まって来たから、僕は名前を名乗るタイミングを逃してしまった。
「おう、それで俺らどうだった?」
「めっ、めっちゃかっこ良かったっす!」
康介はベースの人に話しかけられてパクパクしながら返事をしていて、見てるとまるで小動物みたいでちょっと面白かった。
「康介君、前も来てくれてたよね? ありがとな」
「確か康介君、周 と修斗 と高校一緒なんだよね?」
圭さんと靖史さんに言われた康介は、修斗さんの方を見ながら嬉しそうに「はい」と答え、それを聞いた修斗さんは「お前ら一年か、よろしくな」と康介の頭をポンと撫でる。嬉しそうにはにかむ康介を見て僕も自然と笑顔になれた。
圭さんに今年の文化祭は僕らの学校に演奏しに行くからと言われ、益々康介の顔が赤くなる。興奮状態に上限無しだ。僕も学校でまたさっきのライブを見られるんだと思ったら嬉しくなって、勝手に顔がにやけてしまった。
「あ? お前! このあいだの!」
奥で興味なさそうに着替えていた金髪大男が急にこちらを見て大声を上げた。前に僕にぶつかって来た大男、周さんが僕に気が付きこっちに歩いて来る。その威圧感に思わず僕は康介に体を寄せた。
「あ、そいつは友達の竜太です」
「ふぅん……竜太ね。よろしく」
康介が僕の代わりに紹介してくれたけど、「ふぅん」なんて気だるそうに返事をしながら周さんは何故だか僕の腕を引っ張りグイッと引き寄せる。不意を付かれた僕は、そのまま周さんの胸に飛び込む形になってしまった。びっくりして周さんの胸で固まってると「なあ竜太? 俺カッコよかった?」なんて聞かれ、反射的に「はい」と僕は返事をしてしまった。でもステージで一番かっこ良く見えたのはやっぱりこの周さんで、僕はライブ中は殆どこの人の演奏に釘付けだった。
それにしてもなんで僕、この人に抱きしめられてるんだろう。周さんの体はライブ後で汗ばんでいて、でも不思議なことにちっとも汗臭くはなく寧ろいい匂いがして、僕は全然嫌だと感じなかった。
僕がドキドキしていると、周さんは満足そうに行ってしまった。
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