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13 胸の鼓動

 ライブの後、先ほどのライブに出演していたバンドのメンバーで打上げをすることになり、僕らも一緒に行くことになった。外に出るともう何人かは集まっていて、周りを見渡して見るとみんな僕らより随分と歳上のようで緊張してしまう。僕が印象悪く思ってしまったギャイギャイと煩かったバンドの人もいて、この人達がどうやら一番歳上らしい。  こんな大人ばかりの中に僕なんかがいてもいいのだろうか。帰ればよかったかも、と不安になり康介を見ると、康介は圭さんと楽しそうにお喋りをしながら歩いていた。その嬉しそうな姿を見てしょうがないかと諦めて、僕も康介達の後に続いて歩き始めた。  康介の様子を眺めながらしばらく歩いていると、誰かの腕が僕の肩にかかった。何だろう? と横を見ると、僕の肩に腕を回して歩いている周さんの姿。周さんは特に何か喋るわけでもなく、ただ黙って僕の肩を抱いて歩いている。僕は他人とこんなに近くに、ましてや友達でもない人にこんな風にされるのは初めてで、どうしたらいいのか分からない。周さんは僕の歩幅に合わせてくれてるのか、それともこうやって歩きたいのか、目の前にいる修斗さんや靖史さんの方へは行かずにずっと僕にくっついて歩いていた。  ドキドキする……  隣を見上げると顔が近い。周さんは背が高いから僕は首をぐっと上げなくてはならない。近くで見る周さんの顔はとても綺麗でかっこよかった。 「お前……可愛いのな」  僕が周さんの顔を見ていたら、そう言ってクスッと笑われてしまった。  店に到着すると案内された座敷の部屋へ入り各々自由に席に着いた。座る順番なんか適当で、僕ら以外の人達はみんな顔見知りのようで、バンド関係なく座っている。僕は康介と並んで座りたかったけど、何故か周さんに引っ張られ康介とは対面の席になってしまった。そして僕の隣は察しの通り周さん。しかもがっしりと腰に手を回されていた。  もしかして周さん、もう既に酔っ払ってるんじゃないのかな? あまりにも周さんの行動が不可解で、酔っ払っている以外僕には考えられなくなっていた。  飲み物が到着すると、圭さんが立ち上がり元気に挨拶をする。 「今日もお疲れっしたーー‼︎」 「おぉー!」  圭さんの元気な挨拶で乾杯をする。僕は烏龍茶を頼んだけど、周りの人達はビールを美味しそうに呷っていた。  目の前の料理を食べたり、隣の人に話しかけられ適当に返事をしたり……周りの人たちもそれぞれ楽しそうに喋っている。 「竜太はここ!」  それなのに、僕ときたら何故か周さんに抱き上げられ、そのまま周さんの胡座の中に座らされてしまった。すっぽりと周さんの前に座り、当の周さんは満足そうに僕の事を背後から抱き込むようにしてビールを飲んでる。ちょっと嫌だったけどはっきり言うのもなんだか言いにくいし、さっきから僕の常識を覆す事ばかりで何が何だかわからなく、頭の中がいっぱいいっぱいだった。  どう考えてもおかしな状況なのに、周りの人はそんな僕らの様子を見ても何も言わない。これってもしかして普通のことなのかな? 僕が知らないだけで、こういうのは自然なことなのかも? と気持ちが揺らぐ。ドキドキとあわてている僕の方がおかしいのかもしれない。  周さんは僕らの隣に座っているギャイギャイバンドのボーカルの人と話をしている。そういえば周さん、普通にビール飲んでるけどダメだよね? ビールなんて飲んじゃダメですよ、と言おうとして振り返ったら、周さんは何だか嬉しそうに僕の頭にスリスリと顔を埋めた。  ふと前を見ると、困惑した表情で僕を見ている康介と目が合った。うん、やっぱりそうだよね? そういう反応が普通だよね? でも康介も何も言えないようで、気まずそうに僕からスッと目を逸らした。  僕はこの状態に困惑する感情と、周さんに対するドキドキで胸がいっぱいになってしまった。 ※未成年の飲酒表現がありますが、飲酒は成人してからです。未成年の飲酒を推奨しているわけではありませんのでご理解の上お読み下さい。

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