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21 周のとある一日

 学校はつまらない──    登校はしたものの授業に出る気にはならず、俺は時間潰しに一人屋上に逃げこむ。サボる時は大体ここにいることが多かった。今日も朝からほとんどをここで過ごし、昼飯は食いそびれたけどまあそんなことは問題なかった。  あいつは今頃なにやってんのかな?    まさかライブに来るとは思わなかった。だってそんなところに来るようなタイプじゃねえだろ? 初めて会った時から気になっていたから、意外で驚いたけど正直凄く嬉しかった。小さくてちょっとオドオドしていて、でもあれはきっと芯が強くて気が強いタイプ。  あの日からずっと竜太の事が頭から離れなくって、修斗に止められるのも無視して俺は昼休みに竜太を探しに走り回った。 どうせ昼休みだし一年の教室にいるんだろうと高を括っていたけど、いくら探しても竜太の姿が見えなくて少しイラついた。でも俺のファンだという奴が竜太は康介って奴と一緒に屋上で弁当を食っていると教えてくれた。  康介? 誰だそりゃ? と思ったけど、すぐに陽介さんの弟だと思い出し、俺はそいつに礼を言い屋上へと向かった。  なんでこんなに竜太を探してたのかって? だって修斗のやつが竜太が俺のことを怖がってるなんて言うもんだから確かめたくなったんだ。怖がってなんかいるわけねえだろ、ふざけんな。  竜太を見つけると、ちょっと強引だけど軽音部の部室まで連れて行った。誰も来ない格好の場所。 「俺が怖いか?」  そう聞いたら、ドキドキする……と言われてしまった。  上目遣いで見られて俺の方も照れ臭くて顔が火照った。  やっぱりこいつ、可愛いな。見つめられるとなんとも言えない気持ちになる。こんなふうに思うのだって初めてのことで俺自身も正直戸惑う。  白い肌。クリッとした目が綺麗で……だらしなく伸び切った髪でよく見えないけど、整った顔をしてる竜太。  俺、やっぱり変だ。  堪らずキスをしてしまった。誰にも渡したくないって思って「俺のものになれよ」なんて口走ってしまった。何言ってんだ俺? 大事なおもちゃを独り占めしたい……そんなガキみたいな心境だったのか、勝手に出た言葉に恥ずかしくなる。それなのに「周さんて、僕の事が好きなの?」なんて聞いてくる竜太に唖然とした。  そうなのか。確かに独り占めしたくなるくらいだ……そんなの好きに決まってる。  竜太の言葉に改めて俺は自分の気持ちに気がついた──  あの時の竜太とのキスを思い返しながら、俺は屋上でサボっている。手摺にもたれ、なんとなしにグラウンドを見下ろすとどこかのクラスがちょうど体育の授業をやっていた。男子校だから野郎ばっかでダラダラしている。先生もあまりやる気がないのか、真面目にやってない奴らが少し離れたところで遊んでいるのが見えた。 「あ……えっと、康介か?」  マラソンなのか、これからトラックを走る様子の数人の中に康介の姿を見つけた。てことはきっと近くに竜太がいるはず……そう思って目を凝らして竜太を探した。  ピッという先生の笛の合図でそこにいた数人が一斉にスタートする。そのなかで一歩出遅れてスタートした竜太を見つけた。想像はしていたけど、鈍臭い走りの竜太に思わず笑ってしまった。運動が苦手なのか、走るフォームからちょっと可笑しい。あんな走り方じゃ遅いだろうな、と思う間も無く、竜太はあっという間にみんなから置いていかれた。それでも一生懸命走る姿を見て、俺は心の中で声援を送った。 「あっ!!」  俺の応援虚しく、竜太が派手に転び思わず声を上げてしまう。蹲ったままの竜太が心配で思わず下に下りようかと思ったところに、康介が駆け寄るのが見えて思い留まった。そもそも俺が行ったところで何なんだ? って話だ。  竜太は康介に肩を借りながら校舎の方へ消えていった。俺もそれを見届けて屋上をあとにした。  保健室に行くだろうと思い、俺は急いで校内に戻る。竜太のことが心配なのも勿論だけど、康介と一緒なのが気に食わなかった。ここから保健室のある第二校舎は少し遠いから、間に合ってくれよと願いながら廊下を走った。  保健室の扉を勢いよく開けるとその音に驚いた保健医の高坂が声を上げた。 「うぉっ! びっくりしたぁ。なんだよ橘かよ。保健室は休憩所じゃねえぞ!昼寝ならよそ行け」 「昼寝じゃねえよ! ねえ、竜太はどこ?」    ざっと見渡してもここには高坂しかいなさそう。 「竜太……あ、渡瀬くん? さっき教室戻ったよ。へえ、お前ら知り合い? 渡瀬くん一年生だろ?」 「なんでもいいじゃんか、うるせえな。あいつ怪我どうだった? 大丈夫なのか?」  何でお前がそれを知ってるんだと言われたけど、どうなんだ? と詰め寄る俺に高坂は溜め息をつき教えてくれた。 「擦り傷は大丈夫そうだけど、足首捻ったみたいで痛そうだったな。まあでも友達が手を貸してやってたから大丈夫なんじゃないか?」  友達って康介か……  康介って、なんかいつも竜太のそばにいないか? 何なんだ? 「ふうん、あ! 先生、俺眠いから放課後までベッド貸してね」 「はぁ? ふざけんなよおまえ、やっぱり昼寝しにきたのかよ授業出ろ!」  これはヤキモチなのかな。俺は康介に対してモヤモヤして腹が立ってきたから、落ち着くまで保健室で仮眠をとることにした。

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