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22 放課後

 僕は運動が苦手だ。走るのもそんなに得意じゃない。だから体を思うように動かせないからよく足がもつれてしまう。別に好きで転んでるわけじゃない。  高校に入学してから保健室によく顔を出すもんだから、不本意ながら保健医の高坂先生に顔を覚えられてしまっていた。 「あれ? また来たの? 今度はどうしたのかな?」  保健医の高坂先生はとても人気のある先生だ。怪我や具合の悪い生徒以外に、お喋りだけしにくる生徒も後を絶たない。この先生の人当たりの良さと、さり気なく悩みを聞いてくれたりするところが人気のある所以だ。僕が保健室に来るときは決まって他にも誰かしらいるんだけど、今日は珍しく誰もいなかった。 「体育の授業中、すっ転んだんだよ。膝擦りむいてっからみてやって……」  康介が僕の代わりに説明してくれた。でも擦りむいたところだけじゃなくて、足首も痛いと僕も先生に伝える。康介が肩を貸してくれたからなんとか歩けたけど、正直傷より足首の方がかなり痛かった。 「ああ……ほんとだね。ちょっと腫れてるかな? 捻ったかな?」  先生は傷口を洗い、パッドを貼ってくれながら僕の足首をひと撫でする。取り敢えずこれで冷やしておけと氷嚢を渡され、康介が僕の足首に当ててくれた。熱を持った足首に心地よい。 「君はちょいちょいここに来すぎだからね。もう少し気をつけなね」 「はい。とりあえず次の授業もあるし、もう行きます。ありがとうございました」  あんまり酷いようならちゃんと病院に行けよと言われ、僕らは教室へ戻った──  授業も終わり、僕は帰る支度をする。今日は足も痛いし部活は出ないで帰ろう。康介が一緒に帰ってくれると言ってくれたから助かった。  さてそろそろ帰ろうかな、と康介の方を見ると何やら教室がざわつき始めた。みんなの視線の先を見てみると、キョロキョロしている周さんの姿が目に飛び込んでくる。ただでさえ目立つ風貌で他学年の教室に入ってくる周さんに、誰もが頭の中に「ハテナ」が浮かんでいたと思う。 「あ! 竜太! 足 大丈夫か? 帰るぞ!」  僕を見つけると、周さんは大きな声でそう言いながら近づいてくる。肩を貸してやると言って僕の隣に仁王立ちしてるから困ってしまい、丁重にお断りをした。だって周さん背が高すぎて肩なんか借りられない。康介がいるから大丈夫だと伝えると、周さんは怖い顔をして康介を睨みつけた。  康介はそんな周さんに消え入るような声で 「すみません……」と謝った。 「俺も竜太んちまで送る! 康介もついてこい」  僕らが帰る支度をしているのがわかると、なぜか周さんも一緒に僕の家まで来ると言う。驚いたけど嬉しかった。何かごちゃごちゃ言っている周さんの横で僕は康介に肩を借り、三人で帰宅した。  それにしても僕が怪我していることもなんで知っていたんだろう。心配してくれてるのはわかるから嬉しいけど、周さんの家から遠くないのかな? 僕は足の痛みよりも周さんの言動の方が気になってしまいちょっと落ち着かなかった。 「あー! もう! 焦れったいな! ちっとも進まないじゃんか!」  突然周さんがジタバタしたかと思ったら、僕と康介の前に立ち、背中を向けてしゃがみ込んだ。訳がわからなくて立ち尽くしていると「ほら、おんぶ!」と周さんが振り返る。やっと意図がわかって僕は周さんの背中に体を預けた。これなら僕が歩くより全然早い。 「いいんですか?」 「おうよ、ちゃんと掴まれ」  僕はそのまま周さんにおんぶしてもらい家路についた。

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