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29 夏休みの計画
もうすぐ夏休みが始まる──
今までの夏休みは図書館で勉強したり家で絵を描いたり、長い休みを一人で過ごすことが僕にとっての夏休みだ。一度だけ小学生の頃に康介と陽介さんが海に連れて行ってくれた事があるけど、人の多さに酔い軽い熱中症もおこしてちっとも楽しくなかった。
でも今年は、凄く楽しみな事がある。僕にとって初めての経験。友達と旅行! D-ASCHのメンバーが夏合宿と称した旅行をするらしく、そこに陽介さんが僕と康介を誘ってくれたんだ。
スタジオの近くの温泉地で宿泊。合宿という名の温泉旅行。僕は家族との旅行しかしたことがないから、友達と旅行なんてワクワクする。しかも周さんも一緒だなんて、楽しみすぎてきっと眠れないと思う。
昼休み、康介と屋上でお弁当を食べてると周さんと修斗さんもやって来た。最近はこの二人の先輩とお昼を過ごすことが多い。
「合宿の話、聞いたか?」
「はい! 楽しみです。でも僕ら行って邪魔じゃないんですか? スタジオに篭って練習するんですよね?」
きっと遊びに行くんじゃないのに、こんなに浮かれた僕らがついて行ってもいいのだろうか……本当は迷惑なんじゃないかと心配だった。
「いやいや、練習半分、観光半分って感じよ? 周、竜太くんも連れてく! って煩いんだもん。竜太来ねえなら俺は行かねえ! なんてわがまま言ってんの。なあ? 周」
「うるせえな。いいだろが」
僕の横に座り、僕の髪をくるくる触りながら周さんは口を尖らせた。
「修斗さん、あの……俺らもスタジオ見学していいですか?」
康介は憧れのバンドの練習風景が見られるかも、と、そればっかり言っていたから気になるのだろう。
「もちろんオッケーだよ。普段だっていつも陽介さんもスタジオ来るし、俺らは全然気にしないよ。むしろギャラリーいた方がやる気出るし」
修斗さんの言葉に康介の顔がぱあっと明るくなった。
「よっしゃ! 超嬉しい!」
「それにしても、スタジオ貸切で宿泊もタダなんて凄いですね」
そう、陽介さんが言うには宿泊費は圭さん持ち。僕らは遊ぶお金だけ用意すればいいらしい。
「ああ、スタジオは圭さんの親父さんの所有物で、圭さんが音楽活動をするならって条件で宿泊費も出してくれるんだよ。いやぁ、ありがてえな 」
「圭さんの親父さん、有名なギタリストなんだよ。 ずっとアメリカで圭さんもそっちにいたらしいんだけど、青春時代は日本で過ごしたいっつって、一人で日本に来たんだと。かっこいいし一人暮らし羨ましいな」
修斗さんが色々と教えてくれた。康介はずっと鼻の穴膨らまして修斗さんの話を聞いていた。もちろん僕も今から夏休みが待ち遠しくてしょうがなかった。
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