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31 暴力

 ここのところ、放課後は僕が部活で忙しいのと、康介も助っ人で忙しいのとで一人になることが多かった。おまけに今日は周さんとも一回も会えていない。康介も今日も部活らしく、放課後早々姿が見えなかった。ちょっと寂しいけど今日も一人で帰ろうか、と僕は教室を出た。 「あ、渡瀬くん! 待って……」  突然呼ばれて振り返ると、クラスメイトの斉藤君が慌てたように僕を呼んだ。 「今から帰り? あのさ、橘先輩が呼んでたよ。連れて来いって言われて……」  斉藤君の言葉に僕は嬉しさを隠せなかった。今日は一回も会えなかったけど周さん、ちゃんと学校に来ていたんだねえ、と、斉藤君に話しながら後をついて廊下を歩いた。斉藤君はさっきから喋らず黙って歩いている。僕一人で喋っているのに気がついて少し恥ずかしかった。元々斉藤君も僕と同じで、クラスの中では静かな存在。誰かと一緒に騒いでる、といった印象も全くなく大人しい人なんだという認識だった。 「あ、こっち。早く行こう」  どこまで行くのだろう? 周さんはいつもなら用があれば僕のところに来てくれるのに、今日はどうしたんだろうな、と疑問に思う。気がついたら第二校舎裏の方に向かっていて少し足が竦んでしまった。 「待って……僕、ここやだ……」  斉藤君は慌てた様子で「ちょっとここで待っててね」なんて言い残して何処かへ行ってしまった。この場所は凄く嫌だった。またあの時の事が頭を過る。 「よぉ」  斉藤君がどこかへ行ってしまってすぐ、僕は突然後ろから肩を掴まれた。驚いて振り向くと、そこには周さんではなくこの間のあの男が立っていた。よく見ると、他にももう一人。僕のことを見て笑っていた。 「残念。橘先輩は来ないぜ。お前、最近調子に乗ってるみたいだけど少しは大人しくしたらどうだ? 顔は可愛いから許してやるけどよ」  掴まれている肩が痛い。僕が調子に乗ってる? 全く心当たりもなく、この人の言っていることがちっとも理解できなかった。それより周さんは? ここには来ないの? この人たちは何なの? 「橘先輩達に構ってもらえて嬉しそうだけどよ、それを面白く思ってない奴もいるんだよ。 わかる? 渡瀬君」 「痛いっ、離してください! やだ!」  相変わらず肩は掴まれたままだし、もう一人の人に腕を掴まれ後ろに回され離してくれない。この場から逃げたいのにどうすることも出来ず、この時初めて身の危険を感じた。 「怖い? 震えちゃって可愛いね。こないだはせっかく優しく告白してやったのに渡瀬君が逃げるからさ、俺ちょっとイラっとしちゃったよ。どうしてくれるの? お詫びしてくれるよね?」  嫌だと顔を背けたら、突然お腹に激しい痛みを感じて立っていられなくなってしまった。痛くて声も出せない……自分に何が起きたのかわからなかった。  痛くて立っていられないのに、無理やり後ろで体を支えられているから蹲ることも出来ない。何度も襲ってくる激しい痛みに、やっと殴られているのだと理解し、僕は逃げようと体を捩った。  僕がいくら暴れたところでちっとも状況は変わらない。助けて欲しくて大声を上げようと息を吸い込んだら、一瞬目の前が真っ白になった。何かが爆発でもしたのか? 顔全体が熱を持ち、じわじわと痛みが増していく。こんな痛み今まで経験したことがない。口の中に鉄の味がブワッと広がり、僕は顔を殴られたのだと気がついた。 「あああ、ごめんよ。可愛い顔が台無しだよね、酷えな」  僕を殴った張本人が気持ち悪い声で笑いかける。笑いながらまた拳を振り上げるのを、どうしようもなくただ見ていることしかできないのが悔しかった。  頬が焼けるように痛い。歯が折れてるんじゃないかな……ちゃんと付いてる? 大丈夫かな……  目も開けていられなく、だんだん意識が遠のいていく。いよいよ立っていられなくなり、僕は後ろに倒れ込んだ。僕を押さえていた人はどこに行ったんだろう? 首を動かし確認することも出来ない。でも体は動かせる。足も動く…… 逃げるなら今…… 「うっ? ぐっ……」  突然の圧迫感に変な声が漏れた。体を起こす間も無く馬乗りにされ、もう一人に腕を捕まえられ、また僕は身動きが取れなくなってしまった 。  もうやだ! 苦しい!……助けて! 足をジタバタしたところで僕の腹の上に腰を下ろすこいつは笑ったまま。悔しくて辛くて僕はギュッと目を瞑った。 「泣きそうな顔もそそるね。 ああ、血が出ちゃって可哀想に……」  ヌルッと口元に生温かい感触が這う。驚き目を開けると奴の顔が目の前にあり、僕の口元を舐めていた。 「は? やだっ! やめて! あっ! やぁ……やだやだ!」  何度も何度も、奴が僕の口を舐め回す。僕は奴から逃れようと何度も顔を背けるけど面白がってかゲラゲラと笑いながら口元にキスをされてしまった。悔しくて、悲しくて、もう涙を堪えることなんてできなかった。  気がつくと体を直接弄られている。乱暴に肌を撫で、シャツのボタンを外していく。何をしているんだと考える間も無くその手は下へおりていき、ズボンのベルトを外し始めた。  嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 何で僕がこんな目に…… 「離して! やだ! やめて!」 「うるせえ、黙ってやられてろ」  こんなことさせてたまるか! といくら頭で考えても体がちっとも動かせない。この場から逃げることも出来ない。大声を出そうとすれば顔を殴られる。恐怖で段々と体が萎縮していくのがわかる。  僕はただ泣きながらこいつの好きなようにさせてることしかできなかった。 「おいっ! お前ら何やってんだ! 離れろ!」  誰かが遠くから叫んでいるのが聞こえた。誰だろう……声の方へ顔を向けることも出来ない。でも一瞬にして二人が僕から離れていき、身が軽くなったので助かったのだとわかった。 「大丈夫かっ? 立てる? ……とりあえず保健室行こう。掴まって……」  誰かに体を支えられ、僕は何とか立ち上がる。足が震えてうまく動かせない。目もちゃんと開かない。体のあちこちが痛くてただ声を上げて泣くことしかできなかった。

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