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32 保健室

 僕を助けてくれたのは保健医の高坂先生だった。連れてこられた保健室には斉藤君もいて、斉藤君は僕を見るなりその場で土下座をして泣きながら謝った。何度も「ごめん」と謝る姿に僕は何も言えなかった。正直斉藤君の事なんかより、さっきの恐怖が体中に纏わり付いて震えが止まらない。頭の中がパニックで、斉藤君がなんで僕に謝っているのかも、この時はよくわかっていなかった。  ベッドに座らされ、高坂先生が優しい声で話しかけてきた。 「斉藤君が君のことを知らせてくれたんだよ……脅されていたらしい」  高坂先生は僕の服を脱がせ、熱いタオルで体を拭いてくれながら僕を見つめる。先生の静かで落ち着いた声に段々と呼吸も落ち着き、冷静になっていくことができた。チラッと斉藤君を見たら頬に大きな痣ができていて、僕と同じに殴られたんだとわかった。 「ちょっと痛いだろうけど我慢してね……」  先生は優しく顔の傷を消毒する。あちらこちら痛すぎて寧ろどうだっていい感じ。助かった事にホッとして涙が止まらなかった。 「斉藤君は、手当て済んでるからもう行っていいよ。大丈夫だよね? 渡瀬君は僕に任せて」  斉藤君が帰った後、高坂先生は静かに僕に聞いた。 「……橘にはどうする? 連絡するか?」 「…………」  なんで先生は周さんの名前を出すのだろう。僕と周さんの事、知っているのかな。だけど周さんには知らせないでほしい。心配をかけるし、きっとすごい怒ると思う。こんなことをされてしまった僕を周さんがどう思うのか、考えただけでも怖かった。 「いいです。知らせないでください。心配、かけたくないです」  僕の返事に先生は小さく溜息を吐いた。 「橘さ、最近ちゃんと授業にも出るようになって真面目にやれてるんだよ。あいつ色んな意味で目立つだろ? 素行もちょっと問題だったし。こんな事言いたくないけど、橘の事をよく思わない先生もいるんだよ。でもな、渡瀬君のおかげでだいぶまともになってきたんだ。渡瀬君と親しくなって少しだけ真面目になったんだ。でもこの事を話したらきっとあいつはまた問題を起こすだろうね。このことは僕があいつにうまく話すから……それでいいかな?」  もちろん……そうしてくれるなら、そうしてもらいたい。僕は高坂先生を信頼して周さんに伝えることは任せる事にした。 「落ち着くまでここで休んでいくといい。横になってな」  僕は横になると、ちょっと安心できたのか瞼が重くなってきて少し眠った。

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