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34 車の中

 高坂先生は車で僕の家まで送ってくれた。 「怖かっただろ。色んな奴がいるからな。お前を襲った権藤って奴は入学時から問題児だったんだよ。すぐ暴力を振るうし、可愛らしい生徒にすぐ手を出す。既に何度か指導されてるから、今回の件で退学になるだろうな。うん、僕が退学にしてやるから安心しなね」  思い出すのも嫌だから、もうこの話はしたくなかった。 「ありがとうございます。でもなんで僕が……」  思い出すと体が震える。先生が僕の不安を察してくれたのか、運転しながら手を握ってくれた。優しく触れるその手は不思議と嫌じゃなく、安心できた。 「あの、なんで先生は僕と周さんの事」 「ああ、うん、気になるよな。橘は入学した時からしょっ中保健室にサボりにきててさ。何度も授業出ろって言ってんだけど、全然言うこと聞かなくて。一年の時は出席日数ギリギリだったけどなんとか進級できたってわけだ」  僕の知らない一年生の時の周さんの話。先生は話をしながら僕の手をにぎにぎと触る。なんだろう。ちょっと擽ったい。 「今年になって……渡瀬君に出会ってからかな? 保健室にあまり来なくなったんだよ。他の先生が言うには、授業に顔出すことが多くなったって。それでもたまにサボってはいるみたいだけどね」  ちゃんと授業に出てるんだと聞いてちょっと嬉しい。 「ある時さ、僕に言うんだよ。好きな人ができたから色々ちゃんとしようと思うって。あの橘がそんな風に言うなんて正直笑っちゃうよね。で、その好きな相手って渡瀬君のことかな? って思ったわけ。僕わりと勘が鋭いんだよね」  先生は、ふふっと笑って僕を見た。恥ずかしくて照れ臭くて顔が赤くなってしまう。 「渡瀬君、可愛いね。その髪型も凄く似合ってるよ。イメチェンしたんだね」 「からかわないで下さい」  とうとう恥ずかしさで汗ばんできてしまったので、僕は慌てて先生から手を離した。 「とりあえず、橘には伝えておいたからね」  急に先生は真面目な顔でそう言った。  そうか。こんなに傷だらけで黙っているわけにもいかないよね。遅かれ早かれ周さんの耳には入ってしまうだろう。それならちゃんと最初から伝えていたほうがいい。 「はい。ありがとうございます」  僕はどんな顔をして周さんに会えばいいのだろう。どう説明すればいいのだろう……きっと高坂先生がうまく説明してくれたんだろうけど、それでも僕は周さんの反応が怖かった。 「はい、着いたよ」  車が静かに僕の家の前で停まった。

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