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35 周の怒り
最近竜太と会えてなかった。昼休みも竜太は部室に行ってしまったり、放課後も勿論、部活だと言って会えないことが多かった。
文化祭で展示する絵が決まらないと言い焦っている様子の竜太。まだまだ先だけど、今からそんなに忙しいのかよ、と俺は少し不満に思っていた。
一人家に帰り、部屋でギターを弄る。初めて圭さんの演奏を見て感動したことを思い出しながら、俺はいつも練習している曲を爪弾いた。圭さんは俺の憧れのギタリストの息子。憧れのギターと同じ音を奏で小さいのに圧倒的な存在感の圭さんに、どうやったらそんな風になれるのか聞いてみたことがあった。
手が空いてれば四六時中ギターを触る。これといって特別なことはしていない。日常に当たり前にギターに触れる。ただそれだけのことなのに、俺はそれすらできていなかったと反省した。
そして今日もぼんやりギターを弄っていたら、不意に電話が鳴り、驚く。画面を見ると高坂の名前。学校で会って話すのではなく直接俺に電話をよこすなんて珍しく、胸騒ぎがした。
「なんだよ、珍しい」
「渡瀬くんが襲われた」
端的な言葉。
高坂の言葉に一気に頭に血が上った。
何で竜太が? それより竜太はどうした? 無事なんだろうな?……そう俺がまくし立てると「落ち着け」と電話の向こうで小さく聞こえた。
黙って聞けるな? と念を押され、俺は大丈夫だと高坂に伝える。
「怪我は実際大したことはない。大丈夫だ。ちゃんと俺が手当てして家まで送り届けるから安心しろ。体の怪我なんかより、精神的に参ってるからお前がちゃんと支えてやれ……」
「あ? ふざけんなよ! 誰だ? 誰がこんなことしでかした? ただじゃおかねえからな!」
襲われて大したことないなんてありえない。きっと竜太はやり返すなんてできなかったはずだ。ただやられっぱなしでどれだけ怖い思いを、嫌な思いをさせられたのかと考えたら俺の怒りは一気に爆発してしまった。黙って聞けるわけがなかった。
電話口で溜息が聞こえる。
「橘! 仕返しなんて絶対考えるなよ! もうこれ以上問題を起こすな。これは俺が言ってるんじゃないぞ? 渡瀬くんが言ってるのと同意だ。お前が仕返ししたところで渡瀬くんは喜ぶか? 違うよな? わかるよな、お前なら 」
「…………」
いつもは掴み所なくヘラヘラと自分のことを「僕」なんて言ってる高坂が本性出して「俺」と言ってる。高坂の真剣さがわかって俺は少し冷静になれた。
「ああ、先生。面倒かけたな。ありがとう」
どうにか怒りを抑え、俺はそれだけ言って電話を切った。
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