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43 新幹線
待ち合わせのホームへつくと、D-ASCHの面々が前方に見えた。
赤い髪をした圭さんを筆頭に、長身茶髪な周さんやらかなり目立つ一団に僕らは合流する。
「あれ? 楽器は持っていかないんですか?」
康介が周さんや修斗さんに聞いている。みんな思いの外軽装で荷物も小さい。
「練習しに行くのにギター無くてどうすんだよ、お前面白い事言うな」
「荷物になるから楽器専門の業者に前もって運んでもらってるんだよ」
圭さんが優しく教えてくれた。電車だから出来るだけ身軽がいいだろ? と靖史さん。靖史さんも圭さんと陽介さんと同じ歳のはずなんだけど、なんだか大人っぽくてもっと年上に見えた。長髪がカッコいいな……と、ぽかんと見ていたら周さんに小突かれた。
新幹線がホームに到着し僕らは乗り込む。
圭さんに促されるままに、僕と康介、陽介さんが 三人掛けの席に。その隣の通路を挟んだ席で圭さんと靖史さん、周さんと修斗さんが座席を回転させ向かい合わせに座った。発車してすぐに、隣の四人はミーティングなのか、真剣な表情で話を始める。康介も僕も普段と違うみんなの顔つきに思わず黙り込んでしまった。そんな僕らを見て陽介さんはクスッと笑った。
「何、お前らまで真剣な顔してんの? 別に静かにしてなくても大丈夫だよ。なんかね、新曲があるからそれの話をしてるんだと思うよ」
新曲と聞いた途端、康介が顔を輝かせる。鼻まで膨らんで聞き耳を立て始めた。僕らはしばらく三人で喋っていたけど、窓からの日差しが気持ち良くて段々と瞼が重くなってしまった。
ツンツンと康介に肩を突かれ目が覚めた。顔を上げると通路に修斗さんがにこにこと立っていた。
「竜太くん、悪いんだけど席変わって」
見ると、いつの間にか陽介さんが圭さんの隣に座っていて、周さんの隣の席が空いていた。僕はそそくさと修斗さんと入れ替わり、周さんの隣に座る。座った途端、無言で周さんの手が僕の手を握った。
そんな僕らの目の前にはニヤニヤしてる陽介さん。陽介さんの隣には同じように陽介さんに手を握られて顔を赤くしながら窓の外を見ている圭さん。そういえばこの二人も付き合ってるって言ってたっけ。
なんだか照れくさいな……
僕の手を握りながら、周さんがコソッと「康介の肩にもたれて寝てんなよ」と僕の耳元で言った。些細なヤキモチにちょっと嬉しい。
「眠いなら、俺の肩で寝ろ」
そう言いながら、周さんは僕の頭をぐっと引き寄せた。
「周君てばヤキモチ妬きだね 」
陽介さんがからかうように言うから、周さんがムッとする。知ってる人とはいえ、恋人とくっ付いているのを見られるのはちょっと恥ずかしかった。
「もう眠くないから! それとあまりくっつかないで下さい! 恥ずかしいです」
僕は恥ずかしさから、僕の頭を抱え込んでる周さんの手を振りほどくと、更に周さんはムッとした顔をした。もうその時点で、陽介さんは声に出して大笑い。隙あらばすぐにからかってくる陽介さんに僕たちの態度は思うツボだったらしい 。
「なあ、ちょっと早いけどお昼にしない? 簡単に弁当作ってきたんだよね 」
圭さんが、バッグからゴソゴソと弁当を出す。まさかのお弁当、しかもみんなの分もちゃんとあるらしい。凄すぎる……料理が出来るだけでも凄いのに、お弁当だなんて。しかも、後からちゃんと捨てられるように使い捨ての紙製の箱に詰めていた。
「圭さん、凄い! これ全部自分で作ったんですか?」
僕が驚いてそう聞くと、一人暮らしなんだから料理くらいちゃんとやるよ、と圭さんは笑った。
お握りに唐揚げ、卵焼きや野菜炒め。どれもみんな美味しくてびっくりした。康介もさっきから「すげえ美味え!」しか言っていない。陽介さんは、圭ちゃんの飯は何でも最高に美味いんだよ、と誇らしげだった。
凄く楽しい──
人と一緒にいて、こんなに楽しいと思ったの初めてだった。
本当に来てよかったな 。
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