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45 スタジオ練習
「よし! とりあえず、部屋な。俺と靖史はここ、周と修斗はここ、陽介達三人はここの部屋ね。三部屋とってあるし、夕飯も俺たちだけで個室用意してもらってるからね」
圭さんがそれぞれの部屋の鍵を周さんと陽介さんにも渡し、とりあえず部屋に入り荷物をおろした。ベッドは二つ、プラス簡易ベッドがある。簡易ベッドとはいえ十分すぎる大きさで、僕の家のベッドと大差なかった。ベッドの上に座り、荷物を解いていると圭さん達が入ってきた。
「早速だけど、俺らスタジオ行くね……で、どうする? 夕飯までどっか観光してても構わないけど」
そう圭さんが言うや否や「はいはい! 俺も行きます! 見学させてください!」と康介が叫んだ。康介はこれが楽しみだったんだもんね。
すぐに支度をして僕らはみんなでスタジオへ向かった。
このホテルから歩いて十分程の場所。こういう所も僕は初めてだからワクワクする。建物に入ると受付の椅子にいた人が圭さんに親しげに声をかけていた。派手な圭さんと楽しそうに話している、これまた派手な背の高い男の人。僕はジロジロ見るのはよくないな、と思いつつも目が釘付けになってしまった。あの髪型なんて言ったっけ? あ! モヒカンだ! 実物は初めて見た! 凄いなあ、緑のモヒカン。よく見ると派手な髪の人が何人もいて、圭さんや周さんもそれほど派手ではないように思えてしまう。見ているだけでなんだか楽しかった。
「待ってたよ。楽器も届いてるから……えっと今日は二番の部屋ね。今日から三日間あけてあるから好きに使って」
ありがとう、よろしくね。と圭さんがモヒカンのお兄さんに手を振り、僕らも圭さんに案内され二番のスタジオに入った。
「康介君と竜太君、張り紙してあるけど一応この中は飲食禁止ね。注意してね。喉乾いたらドアの外に自販機と休憩スペースあるし好きに出入りしていいから」
「はーい」
康介が嬉しそうに返事をする。周さんや修斗さんがチューニングを始め、普段見れない真剣な表情に改めてドキドキしてしまった。
「とりあえず、1コーラス流してから、AメロBメロやるか」
靖史さんが曲名を言い、サラッと演奏が始まった。以前見たライブハウスも近かったけど今日は目の前。カッコいいなあ……迫力あるなあ、とやっぱり僕は見惚れてしまった。
圭さんの声は、ちょっと高音で綺麗な声。そこに重なる周さんの声は、男らしくて澄んだ声。僕にはAメロなんだかBメロなんだかわからないけど、少し演奏しては止まり、ああだこうだ言いあいながらまた演奏。圭さんが周さんのギターを取り、圭さんがギターを弾きながら周さんのパートを歌ったりもしている。周さんは真剣な顔でそれを見て、頷きながらまたギターを受け取る。
圭さんがギター弾いてるの初めて見たかも、上手だな……なんて、よく考えれば当たり前の事を思いながら、僕と康介は隅っこに座り見学を続けた。
気づいたら陽介さんはスタジオ内におらずどこかに行ってしまっていた。康介はというと、隅っこで飼い主にお預けを食らってお利口にしている仔犬のように、ポカンと口を開けたままジッと座ってる。康介の姿がちょっと面白かったけどそっとしておくことにして、喉が渇いたので僕も外に出ることにした。ドアの外に出ると陽介さんが飲み物を買っているのが見え、声をかける。そしてすぐそこのフリースペースで腰を下ろし、ジュースを開けた。
「どう? 来てよかった?」
「はい。みんなかっこ良くて見惚れちゃいますね」
「だよね。 俺も圭ちゃんずっと見てたいんだけど、やっぱり練習中は邪魔になるかなって思って遠慮しちゃうんだよ」
陽介さんの言葉にハッとする。
「そうなんですか? やっぱり来ない方がよかったのかな……」
「いやいや、来てくれるのは嬉しいんだと思うよ? でもあんまりずっといるのは集中できないかな……って。俺だったら圭ちゃんにずっと見られてたら気が散って気が散って練習にならないと思うんだよね」
陽介さんは「圭ちゃん好きすぎるから俺は無理だ」と言って笑う。
「だから、練習の時は最初だけ見学してすぐ外で待つことにしてるんだ」
「じゃぁ、僕もそうします」
僕は陽介さんとしばらくの間ジュースを飲みながらお喋りしていた。
「そういえば康介は?」
ふと僕も康介のことを思い出す。そういえばだいぶ経つけどどうしただろう? 最後に見たのはスタジオの端っこで口をポカンと開けて見ている姿。もう一度ドアの小窓から中を覗いたら、さっき出て行った時と寸分変わらない姿勢の康介が見えて思わず吹き出してしまった。
「あいつら、康介の存在は忘れてそうだから気が散るなんて事はないな」
そう言って陽介さんとゲラゲラ笑った。
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