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60 蘇る恐怖心
「なんだよ、離して!」
相変わらず腕を掴まれたまま離してくれない。それにそのプレゼントも返して欲しい。
「なんでこんな事するんですか!」
さっきちゃんと断ったのに、何でこんな事になってるんだろう……
「君達俺らのタイプだって言ったでしょ? ただ一緒に遊びたかっただけなのにさ、君のお友達ってば敵意むき出しの顔するから……でも君は違うよね?」
「君は大丈夫なんでしょ? 男とも楽しめるよね?」
二人して楽しそうにそう言うけど、ちっとも意味がわからない。さっき「遊べない」と断ったはずだ。意味がわからなかったけど、でも凄く嫌な感じ。いつまでも離してくれないこの腕を見て段々僕は怖くなってしまった。
「痛いことはしないから安心してね。大丈夫。怖がらないで……」
ひとりに肩をグッと掴まれゆっくりと押し倒される。咄嗟にあの時のことが蘇り足がガクガク震えてしまった。もう恐怖で体も動かない。
何でまた僕がこんな目にあうんだ……
あの時の権藤の顔が頭に浮かぶ。意識が遠くなりそうな程殴られたあの記憶……
「嫌だ……お願い殴らないで」
怖くて目も開けていられない。それでも声を振り絞り僕は懇願した。
殴らないで……痛いのは嫌だ……
「え? だから痛いことはしないよ。どうしたの? そんなに怯えないでよ」
いつの間にか掴まれていた腕は解放されていたけど、恐怖で僕はその場から動けなくなっていた。
一人がそっと僕を優しく抱きしめ、首筋にキスをする。僕は相変わらず怖くて動けなくて、「いやだ、やめて……」と繰り返すことしか出来ないでいた。
「おいおい、またかよ! 昼間っから盛ってんじゃねえよ! さっさとここから出て行け!」
突然大きな声がすると、二人はさっとどこかへ行ってしまった。
助かった……の? 急に身が軽くなった僕は周りをそっと覗った。
恐る恐る声の方を見ると、見たことのある緑のモヒカン頭がまん丸い目をして僕を見ていた。
「あれ? 君、圭君達の連れだよね?……え? なに? 大丈夫? 立てる?」
モヒカン頭のお兄さんが優しく僕を抱き起こしてくれる。全身震えてどうしようもない。お礼を言いたいのに思うように声も出ない。
「ちょっ……君、震え過ぎ! ほんと大丈夫?」
慌ててモヒカン頭のお兄さんが圭さんに電話をしてくれ、圭さんから僕を探してくれている陽介さんへ連絡が行き、すぐに陽介さんと康介が来てくれた。
僕を見るなり康介がごめんな! ごめんな! と謝りながら抱きしめてくれて、やっと体の震えがおさまってくる。ホッとしたら泣けてきてしまい物凄く心配されてしまった。
「本当に何もされてない? 」
上からのしかかられただけで、すぐにモヒカンのお兄さんが助けてくれたと僕は何度も康介に説明をした。
「康介、謝らないで。僕が油断したんだ。いつも心配かけてごめんね。これからは気をつけるから……もう謝らないで」
康介は泣きそうな顔をして、僕の頭をくしゃっとした。
モヒカンのお兄さんが言うには、この場所は使われていないことをいい事に、地元の若い奴らの溜まり場になっていたり、カップルがこっそりイチャイチャしたりする場になっていたらしい。たまに人の気配があれば、こうやって追い払っていたそうだ。
さっきはたまたま通りかかっただけ。僕は運が良かったんだ。
「助けてくれて、ありがとうございます」
僕はモヒカンのお兄さんにもお礼を言って、康介と陽介さんと一緒にホテルに戻った。
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