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新学期
楽しかった旅行も終わり、夏休みもあっと言う間に終わってしまった。
新学期になり、また僕らは学校へ向かう。久し振りに顔をあわせるクラスメイト達。各々がどんな夏休みだったかなど思い思いに話をしていた。 教室に入る僕を見つけて康介が手を振ってくれる。旅行から帰ってから今日の間、実は部活が忙しかったりで康介とは会えていなかったから、久し振りな気がして嬉しくなった。
「竜、おはよ! 旅行楽しかったね。なんか会うのも久しぶりだし!」
康介の言葉に、周りにいた人達が「お前ら二人で旅行かよ!仲良しか!」と、少し揶揄うように言って笑う。そんな友達に康介は得意そうな顔をして指を振り、夏休みにみんなで行った旅行の話を自慢し始めた。
「俺ら周さん達の合宿練習に同行したんだぜ、バンドのメンバー全員と旅行! スタジオ見学し放題!羨ましいだろ!」
康介の鼻がブワッと膨らむ。こんなに得意げな康介、初めて見たかも。
「マジかよ! なんでお前なんかが一緒に行くんだよ!図々しいだろ!」
クラスの中にはD-ASCHのファンも多い。みんなが「信じられない」と驚いている中、調子に乗った康介が周さん達とはダチなんだ!なんて言ってる。全く康介ったら……なんて見ていたら、そこにいる一人に僕も声を掛けられた。
「いやさ……前から気になってたんだけど、康介はともかく竜太君て橘先輩と仲がいいの? 前に先輩が教室来たことあったよね? 康介より竜太君のほうが仲よさそうだし。なんで?」
返事に詰まる……仲がいいというか、恋人同士だし付き合ってるんだけど。男同士だし、あんまりこういうことは言わない方がいいのかな? そう思って僕は黙ってしまった。
「そうだよ。俺と竜、色々あって周さん達と超絶仲良しなの! 」
康介は僕の代わりにそう答えてくれた。僕は全然機転が利かないから、康介のこういうところが本当に有難い。小さな声で「ありがと」と康介に伝えると、何のこと?という顔をされてしまった。
皆んなとワイワイ話しているうちにチャイムが鳴る。話し足りない雰囲気だったけど、わらわらと各自自分の席に戻っていった。
先生が教室に入って来る。その隣には見慣れない生徒が一人。いつも割と騒がしいのに今日に限っては皆んな静かだ。クラスの全員がその転入生に注目していた。
先生が笑顔で紹介したその彼は、スッと背筋を伸ばし、流暢に自己紹介をする。
「結城志音 です。よろしく── 」
彼の自己紹介に教室が少しざわついた。
僕はというと、周さんとも旅行以来会っていなかったので、今日は学校で会えるといいな……とかぼんやりと考えていて、あまり話を聞いていなかった。
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